【化学工学】ブロック線図の伝達関数はプロセス関係式由来です

ブロック線図の伝達関数はプロセス関係式に由来

化学プロセスの制御を調べる際、ブロック線図が利用されますが、ブロック線図は抽象的でイメージが湧かない方も多いかと思います。

たとえば、伝達関数G(s)や外乱D(s)が具体的にどのような関数になっていて、どのように作るかイメージできていますか?

このページでは、簡単なプロセスを使って具体的にブロック線図を作成し、化学プロセスのマテリアルバランスやヒートバランスなどから伝達関数などが作成されることをご紹介します。

このページで紹介すること
  • 化学工学のブロック線図の作成例
  • 逐次シミュレーションとブロック線図による計算結果
  • ブロック線図を使う理由
目次

ブロック線図は抽象的でわかりにくい?

ブロック線図とは、センサーやバルブによるプロセス制御をブロックと線で表現するものです。

一般的なブロック線図
ブロック線図の例

しかし、教科書では$C(s)$や$G(s)$などのように操作が抽象的に与えられていることも多く、イメージしにくいことも多いです。

ブロック線図は$G(s)$やら$D(s)$やら出てくるけど、なんだか取っつきにくいよ。。

結論としては、ブロック線図の伝達要素$G(s)$や$C(s)$などは、そのプロセス制御の関係式(ヒートバランスなど)をラプラス変換した係数に由来します。このページでは簡単なプロセス例を通してブロック線図の$G(s)$などがどのように作られるかをお伝えします。

プロセス制御を逐次シミュレーションで解こう

簡単な制御例として、タンク中の水温を制御するプロセスを考えましょう。

タンク温度調整のプロセス

定常状態では、入口から$20\unicode{x2103}$で入った液体がタンクのスチームコイルによって$40\unicode{x2103}$まで温められ、タンクから流出するとします。

流量や比熱などは図の通りとします。

この定常状態から入口温度が$\Delta{T_1}$、設定値を$\Delta{T_G}$だけ変わった場合、制御すべきスチーム流量$\Delta{V}$や流出温度の変化$\Delta{T}_2$を考えましょう。

流入温度が変動した場合

まず、タンクにおけるヒートバランスを考えると、$V\frac{\text{d}T_2}{\text{d}t}=Q_H\Delta{V}+W[\Delta{T_1}-\Delta{T_2}]$です。

これは熱量と比熱の関係式だね。

また、設定変更値$\Delta{T}_G$と流出温度変化量$\Delta{T}_2$との偏差を$\Delta{e}=\Delta{T}_G-\Delta{T}_2$とすると、スチームを比例制御$\Delta{V}=K\cdot\Delta{e}$で制御するとします(比例定数$K=0.1$)。

例えば、設定値は変えず($\Delta{T_G}=0$)、流入温度が外乱によって$5\unicode{x2103}$上昇($\Delta{T_1}=\delta{T}=5$)した場合の流出温度変化量($\Delta{T_2}$)をシミュレーションしてみましょう。

タンク温度調整の逐次シミュレーション結果

シミュレーションの結果は上の通りです。制御がない場合、最終的に$\Delta{T}_2$は$\Delta{T}_1=5$と同じところに漸近しますが比例制御$K=0.1$を行うことで、$\Delta{T}_2$を小さくすることが可能です。

逐次シミュレーションはエクセルでできます

ブロック線図はプロセスの関係式に由来します

では、この制御をブロック線図を利用して調べてみましょう。

まず、ヒートバランスと比例制御をブロック線図で表すために、2つの式をラプラス変換をします。すると、$Vs\Delta{T_2}=Q_H\Delta{V}+W[\Delta{T_1}-\Delta{T_2}]$、$\Delta{V}=K\cdot{\Delta{e}}$となります。

ラプラス変換によって$\Delta{T}_2$などの変数は$t$から$s$に変わることに注意です。

この2つの数式は整理するとブロック図でそれぞれ次のように表すことができます。

2つのブロック図

ループを使うことでこの2つの図は1つにまとめることができます。

タンク温度調整ブロック図

これがタンクの温度コントロールのブロック線図です

つまり、ブロック線図の伝達要素$G(s)$や$C(s)$などは、そのプロセス制御の関係式(ヒートバランスなど)をラプラス変換した係数に由来します。

折角なので、このブロック線図から$\Delta{T}_2(t)$の振る舞いを調べましょう。ブロック線図の出口部分に着目すると$\Delta{T}_2=\frac{(\Delta{T}_G-\Delta{T}_2)KQ_H+W\Delta{T_1}}{Vs+W}$と方程式を立てることができます。

いま、設定温度は変化させず($\Delta{T}_G=0$)、流入温度の外乱がステップ状$\Delta{T}_1=\frac{\delta{T}}{s}$とすると、最終的に$\Delta{T_2}=\frac{W}{W+KQ_H}\delta{T}(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+\frac{W+KQ}{V}})$になります。

$\Delta{T}_2={G(s)}\cdot{\Delta{T_1}}$の形にすると$G(s)=\frac{W}{W+KQ_H}(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+\frac{W+KQ_H}{V}})$になります。

$\Delta{T_2}(s)$から$\Delta{T_2}(t)$に戻す(逆ラプラス変換)と、$\Delta{T}_2=\frac{W}{W+KQ_H}\delta{T}[1-\exp(-\frac{W+KQ_H}{V}t)]$となります。これは先ほどの逐次シミュレーション結果と全く同じように振舞います。

ブロック線図による解

同じ方程式を解いているので、どちらも同じ結果になります。

ブロック線図を使うと議論の見通しが良い

最後になぜブロック線図を使うのかを簡単に説明します。

ブロック線図を使わなくても逐次シミュレーションすればよいのでは?

ブロック線図を使うことで、その制御の安定性の判断を見通しよくできます。

ブロック線図を使うことのメリットの一つは見通しよく制御の安定性を議論できることです。例えば、さきほどのタンク液面制御については、伝達関数は$G(s)=\frac{W}{W+KQ_H}(\frac{1}{s}-\frac{1}{s+\frac{W+KQ_H}{V}})$でした。

この伝達関数は「極」として$s=0,-\frac{W+KQ_H}{V}$を持つことになりますが、どちらも正の数ではないため、この制御は発散しない必要条件を満たします。

なんだか煮え切らない表現だね。発散することもあるの?

正の極を持たないことは発散しない「必要十分条件」ではありません。正の極を持たなくても発散することはあります。

このように、制御についてプロセス変数の途中変化には興味がなく、その制御そのものが安定でありえるのかなどを見通しよく調べたいというときにブロック線図は有効です。

まとめ

このページでは、抽象的になりがちなブロック線図について、簡単なプロセスの例を使ってブロック線図を具体的に作成を行いました。

ブロック線図は化学工学だけでなく、電気工学や機械工学など幅広く使われている記法ですが、学ぶ上で抽象的になりやすく、伝達関数などが何から由来するのかわかりにくくなる場合があります。

化学プロセスにおける伝達関数は元は対象となる制御対象のマテリアルバランスやバルブ制御の関係式などのプロセス関係式から由来することをこのページでお伝えしました。

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