蒸留は化学工学の教科書で必ずといっていいほど登場するプロセスです。
しかし、蒸留塔の内部では蒸発や気液の流れなど絡み合っており、内部の状況をどのようにしたら表せるかわからないと感じたことはありませんか?
実は3つの条件を用いることで蒸留塔内部での蒸発と凝縮や、上下の段と気体・液体の行き来を表現することができます。このページではその3つの条件を解説します。
- 蒸留塔内部で成り立つ3つの条件
- 各段で気液平衡が成り立ちます
- 段間でマテリアルバランスが成り立ちます
- 段間で熱バランスが成り立ちます
気液平衡条件
蒸留塔内部では各段ごと蒸発が起こっているので、まずは各段ごとに気液平衡が成り立つ必要があります。
- 各段で各成分が飽和蒸気圧を持っている
各成分の圧力は$PV=nRT$で計算できないの?
$PV=nRT$は凝縮液があるときは使えません。代わりに飽和蒸気圧を使います。
凝縮液があるときの気体の圧力は$P=\frac{nRT}{V}$とはならず、飽和蒸気圧になります。各気体の飽和蒸気圧はアントワンの式${p_j^i}=\exp(A^i-\frac{B^i}{T+C^i})~~(A^i~C^iはパラメータ)$で表すことができます。
蒸留塔内部の圧力は各成分ごとの圧力に分けることができます。
蒸留塔内部では、さまざまな気体が混在しています。$j$段目で成分$i$のモル濃度が$x_j^i$だったとき、分圧は$P_j^i=x^i_jp_j^i$で表せます。
これはラウールの法則だね。
活量係数$\gamma$を使って$P_j^i=x^i_j\gamma_j^ip_j^i$とすると、非理想性も表現できますよ。
まとめると、$j$段目での圧力$P$は各成分からの寄与を足し合わせた$P=\sum_ix^i_jp_j^i$で表され、$p_j^i$は飽和蒸気圧から知ることができます。
マテリアルバランス条件
2つめの条件として、蒸留塔においては気液平衡だけでなく、マテリアルバランスが成り立つ必要があります。
- 各段で各成分の物質流入・流出量は等しい
蒸留塔の段間のマテリアルバランスを見てみましょう。
FEED段以外では、$j$段(赤点線枠内)での物質増減はありません。
つまり、赤枠に入る物質量と出る物質量は等しくなります。
数式で表すと次のようになります。
$L_{j-1}x_{j-1}^i+V_{j+1}y_{j+1}^i=V_jy_j^i+L_jx_j^i$
物質収支が崩れていると、段内の物質がどんどん増えたり、減ったりしていることになるから、平衡状態ではないよね。
塔頂と塔底も還流比$R$や抜き出し量$B$に注意すれば、同じようにして式を作れます。
熱バランス条件
最後に、蒸留は熱バランスも考慮する必要があります。
もし、段ごとにエンタルピーバランスが崩れていると段の温度が変わっていってしまいます。
熱収支の収束条件は以下です。
- 各段でエンタルピー流入・流出量は等しい
蒸留塔内部における熱量の流入と流出をモデル化して取り扱いましょう。
各段に流入する熱量$H_{\textrm{IN},j}$と流出する熱量$H_{\textrm{OUT},j}$はつり合う必要があります。
これを数式で表すと次のようになります。
$H_{\textrm{IN},j}=H_{\textrm{OUT},j}$
エンタルピー流量の単位は$(J/hr)$です。
$H_{\textrm{IN},j}$や$H_{\textrm{OUT},j}$はどうやって与えるの?
例えば流出量$H_{\textrm{OUT}}$は気体として上段へ流出する熱量と液体として下段へ流出する熱量です。
熱容量$h^i(J/mol)$の成分$i$が$j$段から$L^i_j(mol/hr)$で流出したら熱流出量は$h^iL_j^i(J/hr)$だね。
まとめ
以上の方程式をまとめると、蒸留塔内部では3つの条件が成り立っています。
- 各段で各成分が飽和蒸気圧を持っている
- 各段で各成分の物質流入・流出量は等しい
- 各段でエンタルピー流入・流出量は等しい
蒸留塔計算を行うプログラムを作成する場合でも上記3つの条件を満たすことで作ることができます。