【熱交換器】設計者とユーザー目線それぞれの計算問題を解説

熱交換器の伝熱面積や出口温度を求める問題を解説

化学工場の設備で蒸留塔やタンクの次に存在感があるのは熱交換器ではないでしょうか?

大学の化学工学で熱交換器を取り扱う際は、繰り返し計算が不要な伝熱面積を求める問題などが多く取り扱われますが、実際の工場では繰り返し計算が必要となる出口温度を知りたい場合の方が多いです。

このページでは、熱交換器の「伝熱面積を求める」という設計者視点と、「出口温度を求める」という利用者視点の2つの問題をご紹介します。

目次

設計視点での熱交換器の計算

熱交換器を学ぶ際、よくある問題は次のようなものではないでしょうか?

よくある問題

向流熱交換器で流量$W_H=0.5[\text{kg/s}]$、温度$T_{\text{in}}=120[^\circ\text{C}]$の高温オイル(比熱$2100[\text{J/kg}\cdot\text{K}]$を$T_{\text{out}}=90$に冷却する。冷却水(比熱$4200$)は流量$W_C=0.2$、温度$T_{\text{in}}=5$である。総括伝熱係数$U=250[\text{W/m}^2\cdot\text{K}]$として、必要な伝熱面積$A[\text{m}^2]$を求めよ。

熱交換器_問題1

設計目線の熱交換器の問題は「新設する熱交換器の伝熱面積Aを求める」ということが特徴です。

この問題の場合、高温オイル(流量$0.5[\text{kg/s}]$、比熱$2100[\text{J/kg}\cdot\text{K}]$)を$120[^\circ\text{C}]$から$90[^\circ\text{C}]$まで冷却するので、冷却水へ$0.5\times2100\times(120-90)=31500[\text{J/s}]$の熱量を熱交換器にて渡す必要があります。

その結果、冷却水(流量$0.3[\text{kg/s}]$、比熱$4200$)の温度は$5[^\circ\text{C}]$から$30[^\circ\text{C}]$まで上昇することになります(エネルギー保存則)。

熱交換器_温度分布
熱交換器の温度分布

一方、熱交換器上での熱の交換量は$Q\text{[W]}=UAΔT$で計算できます。この$\Delta{T}$(対数温度差)は向流熱交換器の場合、$\Delta{T}=\{(T_{\text{in}}-t_{\text{out}})-(T_{\text{out}}-t_{\text{in}})\}/\ln{\frac{T_{\text{in}}-t_{\text{out}}}{T_{\text{out}}-t_{\text{in}}}}$で計算でき、今回の場合、$\Delta{T}=\{(120-30)-(90-5)\}/\ln{\frac{120-30}{90-5}}=87.47[^\circ\text{C}]$になります。

この$Q\text{[W]}=UAΔT$に$Q=31500$、$U=250$、$\Delta{T}=87.5$を代入することで、知りたかった必要な伝熱面積$A=1.44\text{[m}^2\text{]}$を得ることができます。

利用目線での熱交換器の計算

大学などでよく取り上げられる熱交換器の問題は「伝熱面積$A$を求めよ」かと思いますが、工場で熱交換器を新設するケースは多くないのが現状です。

熱交換器を新設するなんて滅多にないよ

工場では流量などを変えたときに既設熱交換器で能力が足りているかを気にすることの方が多いです

そのため、工場で働く場合において実際に気になるのは「熱交換器に流体が入った際、出口温度が何度になるか」を調べる次のような問題が多いです。

よくある問題

向流熱交換器(総括伝熱係数$U=250[\text{W/m}^2\cdot\text{K}]$、伝熱面積$A=2[\text{m}^2]$)に高温オイル(流量$W_H=0.5[\text{kg/s}]$、温度$T_{\text{in}}=120[^\circ\text{C}]$、比熱$C_H=2100[\text{J/kg}\cdot\text{K}]$)、冷却水(流量$W_C=0.2$、温度$T_{\text{in}}=5$、比熱$C_C=4200$)を流入させた場合、出口でのオイル温度を求めよ。

熱交換器_問題2

確かに、「既設の熱交換器における出口温度$T$を求める」問題のほうが多いよね。

例えば、生産性向上のためにオイル流量を増やしたい、夏場で冷却水温度が上がっている、など出口での流体温度が危険な状態にならないか調べなければならないケースは多いです。

大学の授業では熱交換器の出口温度を計算させる問題が少ない理由はなぜだろう?

出口温度$T$を求める問題が大学の授業であまり取り上げられない理由は、「繰り返し計算による収束計算が必要になるから」です。

愚直に繰り返し計算すると出口温度も計算することができます

具体的に熱交換器の出口温度を計算する方法を紹介します。

まず、高温オイルが$120^\circ\text{C}$からある温度$T^\circ\text{C}$まで低下したと仮定します。

例えば、$120⇒90^\circ\text{C}$まで温度低下したとすると、オイルからは$q=2100\times0.5\times(120-90)=31500\text{W}$の熱が放出されることになります。

オイルの出口温度を仮定したことによって、冷却水の出口温度もエネルギー保存則によって計算できるので、対数温度差$\Delta{T}$を仮決定することができます。

今の場合、冷却水は5⇒30℃まで上昇するはずだから、対数温度差は$\Delta{T}=\{(120-30)-(90-5)\}$$/\ln{\frac{120-30}{90-5}}=87.5[^\circ\text{C}]$と仮置きできるんだね

一方で、熱交換器での熱交換量$Q$は高温オイルと冷却水の対数温度差$\Delta{T}$を用いて$Q=AU\Delta{T}$になります。

値を代入すると$Q=250×2×87.5=43750[W]$になります

あれ?オイルの放熱量$q=31500$と矛盾するね

オイルの出口温度を$T_\text{out}=90$と仮定した場合、比熱や温度差から得られる放熱量$q=wc(T_\text{in}-T_\text{out})$と熱交換器での交換熱量$Q=AU\Delta{T}$が一致しません。つまり、$T_\text{out}=90$は正しくないオイルの出口温度であるということです。

そのため、この2つの熱量$q$と$Q$が等しくなる高温オイルの出口温度$T$を探す必要があります。

今の熱交換器の場合、オイルの出口温度を$T_\text{out}=82^\circ\text{C}$と仮定すると$q=Q$に近づくことが分かります。

熱交換器_繰り返し計算
オイルの出口温度別の$Q$と$q$の計算結果

より正確には81.89℃で$q=Q$を達成できます

このように、既設の熱交換器に対して高温オイルと冷却水を入れたときの出口温度は、繰り返し計算を行うことで簡単に出口温度を知ることができます。

実際の工場では温度ごとの流体比熱の変化や、チューブが折り返される2パスの熱交換器なども取り扱えるASPENなどのソフトウェアで出口温度を計算することが多いですが、「熱交換器の出口温度を知るには繰り返し計算が必要」という基本は知っておきましょう。

まとめ

このページでは、熱交換器の「伝熱面積を求める」という設計視点での問題と、「出口温度を求める」という利用視点での問題の2つをご紹介しました。

授業では、熱交換器に限らず蒸留や抽出などでも繰り返し計算のない一本道の計算問題が多く取り扱われますが、実際の工場では繰り返し計算が必要となる状況を取り扱うことの方が多いです。

大学のテストなどで熱交換器の伝熱面積を求める問題を見て、「熱交換器を新設することは滅多にないだろう」、とは思わずに、「繰り返し計算のいらない問題にしてくれている」と感謝するようにしましょう。

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