蒸留計算といえばマッケーブシール法(階段作図法)が有名ですが、実はマテバラや気液平衡に矛盾する解を与えるという問題点があります。
厳密に蒸留計算を行ったプログラムの結果と比較して、マッケーブシール法の問題点を見ていきましょう。
【復習】マッケーブシール法での解法
蒸留のよくある問題といえばこんなのでしょう。
問題:「下図のような運転を行う蒸留塔について、理論段数を求めよ。」
早速、階段作図法でさくっと解いていきましょう。
還流比RがR=1.5/(1.5+1)=0.6であることから、濃縮操作線、回収操作線を引くことができます。
あとは、塔頂液組成(A点)から階段作図組成で格段の組成を決めることができ、6段目でEtOHのモル分率が0.08となることがわかります。
つまり、答えは「理論段数は6段あればよい」だね
実はそう単純ではありません。それではマッケーブシール法の問題点を見ていきますしょう。
階段作図法の結果をまとめたものはこちらです。
6段目のエタノールモル分率を「0.08=塔底濃度?」としていますが、果たして塔底のエタノールモル分率は0.08としてよいのでしょうか?
段数 | 液体EtOH濃度 | 気体EtOH濃度 |
A(塔頂液) | 0.75 | |
2 | 0.685 | 0.75=塔頂濃度 |
3 | 0.61 | 0.711 |
4 | 0.52 | 0.666 |
5 | 0.36 | 0.606 |
6 | 0.08=塔底濃度? | 0.404 |
【本題】マッケーブシール法から出る矛盾点
実は、塔頂でのエタノールモル分率を0.75として階段作図を行った場合、以下のような矛盾が発生します。
- パターン①:階段作図の最終点を信用し、塔底EtOHモル分率を0.08とした場合
-
この場合、塔頂からのエタノール流出量は0.75mol/hr、塔底からの流出量は0.08mol/hrであるため、合計流出量が流入エタノール量1mol/hrと合いません。
- パターン②:マテリアルバランスを信用し、塔底EtOHモル分率を0.25とした場合
-
この場合、塔底液組成点Bは階段作図線上の点ではありません。つまり、塔底で気液平衡を満足できていないことになります。
つまり、階段作図法はマテバラと気液平衡の両方を満たした解ではないということか。
マッケーブシール法に矛盾が生まれる理由
結論をいうと、「還流比R=1.5で塔頂からエタノールモル分率0.75で抜き出す」というスタート地点が間違っています。
塔頂濃度は本来、蒸留計算の結果であって、蒸留計算の前提ではありません。
階段作図法は最終的な計算結果に矛盾が出やすいんだね。
正しい計算結果をもとに階段作図した場合
マテリアルバランスと気液平衡をプログラムを利用して無矛盾に解いてみました。(理論段数は5段、FEED段は4段目としています。)結果が下の表です。
計算結果はこちら
段数 | 液体EtOH濃度 | 気体EtOH濃度 |
A(塔頂液) | 0.74331 | |
2 | 0.67342 | 0.74331 |
3 | 0.58935 | 0.70380 |
4 | 0.47349 | 0.65316 |
5 | 0.25636 | 0.56094 |
まとめるとエタノール蒸留は下図のマテリアルバランスで運転されていることになります。
プログラムでは、REFLUX DRUMから蒸気として流出する分も加味しています。
正しい塔頂でのエタノールモル分率は0.75ではなく、0.74334ということ?ほとんど同じじゃない。
このわずかな違いが重要です。この結果が階段作図でどのよう書けるか見てみましょう。
A点が塔頂からの流出液の組成、A’点は塔頂からの流出蒸気の組成、B点は塔底からの流出液の組成を表しています。
回収操作線とx-y図の対角線との交点Bにきちんと5段目の階段があることが重要なポイントです。
マッケーブシール法においてもマテバラも気液平衡も無矛盾に解けているということだね。
驚くことに、元の問題での塔頂濃度とプログラムを用いて無矛盾に解いた場合の塔頂濃度はほとんど変わりませんでしたが、階段作図から得られた塔底でのモル濃度は大きく異なりました。
塔頂でのモル分率 | 塔底でのモル分率 | マテバラ | |
マッケーブシール法 | 0.75 | 0.08 | × |
プログラムで無矛盾に解いた場合 | 0.74334 | 0.25636 | 〇 |
階段作図法ではスタートする濃度が少しでもずれてしまうと、最終的には誤差が大きくなってしまうことあります。
まとめ
このページで確認できたことをまとめます。
- 蒸留塔からの流出モル分率を恣意的に決めると、マッケーブシール法では理論段数が整数にならない。
- 蒸留塔計算を無矛盾に行うには、マテバラと気液平衡の両方を満たして解く必要がある。
- マッケーブシール法でスタート濃度が少しでも違うと無矛盾な解とかなり違う答えになってしまう。
以上、このページではマッケーブシール法の解法をざっと復習しつつ、マッケーブシール法の問題点を見てきました。マッケーブシール法を勉強するときは、すこしこのページでお伝えしたことに注意してみましょう。