【化学者むけ】主量子数、方位量子数、磁気量子数の由来・特徴について解説

主量子数、方位量子数、磁気量子数のまとめ

量子化学では主量子数、方位量子数、磁気量子数を必ず学びます。

例えば、K殻、L殻、M殻に関連する主量子数n(nは正の整数)はとても有名です。しかし、正の整数である必要性が何から由来するか知っていますか?

このページでは、主量子数、方位量子数、磁気量子数に関するまとめと、制約条件や波動関数がどのようにして出てくるかまで解説します。

このページで紹介すること
  • 主量子数、方位量子数、磁気量子数の意味まとめ
  • 各量子数が関連する制約条件の由来を紹介
  • 各量子数が関連する波動関数の導出過程を紹介
目次

主量子数

まずは主量子数$n$のまとめを行いましょう。

主量子数$n$まとめ
  • エネルギーを決定する量子数である。
  • 主量子数が大きくなると、原子からの離れた場所での存在確率が上がる。
  • 主量子数$n=1,2,3$はそれぞれK殻、L殻、M殻に対応する。
  • 動径方向(極座標の$r$方向)のシュレーディンガー方程式を解く際に現れる。
  • ラゲール陪関数と関連が深い

それでは一つずつ解説していきます。

主量子数$n$はエネルギーを決定する量子数です。$n$を用いると軌道エネルギーは$e=-(\frac{1}{4\pi\epsilon_0})^2\frac{me^4}{2\hbar^2}\frac{1}{n^2}$で書けます。

電子が原子に束縛されているので、エネルギーはマイナスになります。$E$が$-\frac{1}{n^2}$に比例することが重要です。

エネルギーは$n$だけで決定され、$l$や$m$はエネルギーに影響しないんだね。

電子の存在確率をグラフで書くとわかりますが、主量子数$n$が大きくなると、原子からの離れた場所での存在確率が上がります。

つまり、主量子数$n$は水素原子からの距離を表す指標でもあり、古典的には$n=1,2,3$はそれぞれK殻、L殻、M殻に対応します。

s軌道のグラフ
1s、2s、3sの電子存在確率

$n$が大きくなると電子が原子から遠ざかるということだね。

主量子数$n$の出どころですが、水素原子モデルのシュレーディンガー方程式における動径方向(極座標の$r$成分)の方程式を解く際に現れます。シュレーディンガー方程式を整理していくと、数学的にはラゲール陪微分方程式という形になるため、動径方向の波動関数はラゲール陪関数を利用して表すことができます。

この際、動径方向の波動関数が発散しない条件によって主量子数$n$が正の整数であり、方位量子数は$n\ge{l-1}$であるという制約がでてきます。

主量子数$n$に関する波動関数の計算はこちら

動径方向のシュレーディンガー方程式を整理していくと、ラゲール陪微分方程式の形を作ることができます。

動径方向のシュレーディンガー方程式

おそらく、動径方向のシュレーディンガー方程式が水素原子モデルの中で最も解くのが大変です。

補足

動径方向の方程式_補足

動径方向の波動関数が発散しない条件から、$n$が正の整数であり、$n\ge{l-1}$の制約が発生します。

方位量子数

次に、方位量子数$l$を解説していきます。

方位量子数$l$まとめ
  • 軌道の角運動量の大きさを決める。
  • 方位量子数$l$が大きくなるとs、p、d、f、、、と原子軌道は形状が変化する。
  • 方位量子数には$n\ge{l-1}$の制約がある。
  • 緯度方向(極座標の$\theta$方向)のシュレーディンガー方程式を解く際に現れる。
  • ルジャンドル陪関数と関連が深い。

化学者にとっては、方位量子数$l$は原子軌道の形状を決めている量子数として有名です。方位量子数$l$が大きくなると原子軌道はs、p、d、f、、、と変化し、軌道の形状は複雑になっていきます。

spd軌道の図
s軌道、p軌道、d軌道の順に形状は複雑になります

もう少し物理的に表現すると、主量子数$n$はエネルギー$E$を決めていましたが、方位量子数$l$は軌道の角運動量の大きさ$L^2$を決める量子数です。

角運動量って化学的には何に影響するの?

軌道角運動量はスピンと相互作用するので、金属錯体の磁気性質や発光のスペクトルに影響します。

また、主量子数$n=1,2,\cdots$と任意の正の整数をとれましたが、方位量子数は$n\ge{l-1}$の制約があります。これは既に上で導いている動径方向の波動関数が発散しない条件$n-l-1\ge0$に由来します。

たとえば、2d軌道($n=2,p=2$)は波動関数が発散するから無理なんだね。

方位量子数$l$は水素原子モデルのシュレーディンガー方程式における、緯度方向(極座標の$\theta$成分)の方程式を解く際に現れます。緯度方向のシュレーディンガー方程式の発散しない解を探していくと、数学的にはルジャンドル陪微分方程式という形に行きつくため、緯度方向の波動関数はルジャンドル陪関数を利用して表すことができます。

方位量子数$l$に関する波動関数の計算はこちら

緯度方向のシュレーディンガー方程式は$z=\cos\theta$と置換すると、ルジャンドル陪微分方程式の形になります。計算の過程で方位量子数$l$と磁気量子数$m$に関する制約条件($l$は$0$以上の整数で$l\ge|m|$)が出てきます。

方位量子数の計算式

$n\ge{l-1}$は動径方向のシュレーディンガー方程式を解く際の制約に由来します。

磁気量子数

最後に磁気量子数$m$です。

磁気量子数$m$まとめ
  • 軌道角運動量の$z$方向の大きさを決める。
  • 磁気量子数$m$が変わると軌道の向きが変わる。
  • 磁気量子数$m$に関連する波動方程式は複素数になる。
  • 磁気量子数には$|m|\le{l}$の制約がある。
  • 経度方向(極座標の$\psi$方向)のシュレーディンガー方程式を解く際に現れる。
  • px、py軌道は異なる磁気量子数の状態を足し合わせて作られる。

化学者としては、方位量子数$l$が軌道の形状を決める量子数で、磁気量子数$m$は軌道の向きを決めている量子数ととらえられるケースが多いです。

$m$の値によって、p軌道がpz軌道などまで細分化されます。

物理的には、磁気量子数$m$は軌道角運動量の$z$方向の大きさ$L_z$を決める量子数です。

磁気量子数$m$は$m=0,\pm{1},\cdots,\pm{l}$の制約がありますが、これは緯度方向の波動関数が発散しない条件$l\ge|m|$によります。

主量子数$n$と方位量子数$l$に関するシュレーディンガー方程式の解は実数で得られていましたが、磁気量子数$m$に関する波動関数は$\Phi=e^{im\phi}$と、複素数を含んだ形で与えられます。

磁気量子数$m$に関する波動関数の計算はこちら

経度方向のシュレーディンガー方程式は単純な微分方程式です。計算の過程で磁気量子数$m$が整数である制約条件が出てきます。

磁気量子数の計算式

$s=2,l=1$の2p軌道では$m=0,\pm{1}$の3つの値をとることができますが、$m=0$のみが実数となり、これは2pz軌道を表します。2pxと2pyに関しては複素数関数になる$m=\pm{1}$(それぞれ$\Psi=e^{\pm{i}\psi}$)の波動関数を結合させることで得ることができ、$\text{2px}=\frac{\Ket{m=1}+\Ket{m=-1}}{\sqrt{2}}$、$\text{2py}=\frac{\Ket{m=1}-\Ket{m=-1}}{\sqrt{2i}}$で得ることができます。

$m=\pm{1}$を結合させて作った2px、2pyはシュレーディンガー方程式の固有関数にはなりません。

まとめ

このページでは、主量子数、方位量子数、磁気量子数のまとめを行いました。

これらの量子数は水素原子モデルのシュレーディンガー方程式を解く過程で出てくる量子数で、波動関数が発散しない条件や周期境界条件から$n=1,2,\cdots$、$l=0,1,\cdots,n-1$、$m=0,\pm1,\cdots,\pm{l}$の制約が生まれます。

また、水素原子モデルのシュレーディンガー方程式はラゲール陪多項式やルジャンドル倍多項式を利用することで解けることもご紹介しました。

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