化学メーカーで働いている方は化学(化学工学ではなく、有機化学や無機化学など)を専攻していた方が一番多いでしょう。「高圧ガス資格も化学専攻者は甲種化学で受験するのが当たり前」と思っていませんか?
しかし、工場で働いている方にとっては、甲種機械の方が資格勉強のメリットが大きいと感じています。
このページでは、「化学専攻であっても甲種機械で受験するメリット」を化学・機械両方を取得した私の独断と偏見を元にご紹介します。
【両方受験した感想】甲種機械で取得すべき
まず、私は高圧ガス製造保安責任者(以下、高圧ガス)の甲種化学と甲種機械、両方で免状を所有しています。

私は化学専攻の出身で、社内では製品開発に携わることが多いです。そんな私が甲種化学と甲種機械の両方で受験した結果、甲種機械で取得した方がよいと感じました。
その最大の理由は、自分が作っている製品が工場で作れることを示すためにも、最低限の化学工学的な計算(つまり、ポンプの必要動力や熱交換機の伝熱に関する計算)が必須なためです。

甲種機械の試験勉強を行うことで効率よく、化学工場で頻出の化学工学の計算に慣れることができるので、化学専攻の方も甲種機械での受験をお勧めします。

試験問題の比較
高圧ガスの甲種化学と甲種機械の出題範囲を見てみましょう。
高圧ガスの試験科目は「学識」、「保安管理技術」、「法令」の3つがあり、化学と機械で問題が異なるのは「学識」です。
例えばR6年度の学識試験では以下のような内容が問われています。
R6:甲種化学 | R6:甲種機械 | |
問1 | $PV=nRT$と気体分圧の計算問題 | 熱交換機の伝熱量、熱と総括伝熱係数の関係式$Q=UA\Delta{T}$を使う計算問題 |
問2 | 熱力学(カルノーサイクル)の計算問題 | レイノルズ数$\text{Re}=\frac{\rho{v}L}{\mu}$、ベルヌーイの法則、ポンプ動力値を問う計算問題 |
問3 | 化学平衡、ギブズエネルギーの関係、$\Delta{G}=-RT\ln{K}$を使う計算問題 | 溶接施工、溶接部の欠陥・劣化を問う知識問題 |
問4 | 2種の物質に関する性質、用途、工業的製法を問う知識問題 | 金属のひずみ、熱膨張、弾性係数の関係式を問う計算問題 |
問5 | 爆発下限界($\text{vol}\%$)と燃焼熱の関係を問う計算問題 | 熱力学(断熱膨張など)の計算問題 |
問6 | 燃焼に関する用語の意味を問う知識問題 | (甲種機械は問6は無し) |
化学者が甲種機械で受験するメリット
化学専攻の方が甲種化学を受験する最大のメリットはやはり「新たに学ぶことが最小限で済む」ということでしょう。

熱力学や化学平衡は高校生のころから使っている方も多いので、R6年度の場合、問1~3まではスムーズに理解できるかと思います。
しかし、私が化学専攻であっても、甲種機械での受験を勧めるのは次のような大きなメリットを感じるためです。
- 化学メーカーで活かしやすい分野(ポンプの必要動力や熱交換機の大きさ)の計算に慣れることができる
- 物質の工業製法などを問う知識問題より、金属の腐食や溶接に関する知識の方が知識を活かしやすい
1つ目のメリット:工場頻出の計算に慣れられる
1つ目のメリットは、甲種化学の計算問題(化学平衡や爆発下限界など)よりも甲種機械の計算問題(ポンプや熱交換機など)の方が化学メーカーで活かしやすい計算だと感じた点です。
化学メーカーに入社した場合、開発を行う化学専攻の社員でも、「実際に工場で作れるような製品になっているか」ということを常に問われます。例えば、「製品の粘度が高く、既存のポンプ・配管で流せなくなっていないか」、「反応熱が大きく、既存の熱交換機で冷却できないのではないか」など、製品の物性が機械的な制約条件をクリアしているかが非常に重要です。
そのため、自分の開発製品が工場で作れることを示すためには、最低限の化学工学的な計算の知識(ポンプの必要動力や熱交換機の伝熱に関する計算など)が必須です。甲種機械の試験勉強を行うことで効率よく、化学工場で頻出の化学工学の計算に慣れることができるので、化学専攻の方も甲種機械での受験をお勧めします。
2つ目のメリット:金属に関する知識は役に立つ
2つめのメリットは、甲種化学で問われる物質に関する性質、用途、工業的製造法より、甲種機械で問われる金属の腐食や溶接の知識の方が職場で活かしやすいと感じた点です。
甲種化学では、様々な物質に関する知識を蓄える必要がありますが、自分が業務でこれらの物質に関わっていることは稀なので、業務にはあまり活かせません。(逆に、業務で関わっている場合は試験で問われている内容よりはるかに詳しいでしょう。)つまり、自分の実務に直結する勉強として取り組むにはあまりタイムパフォーマンスは低くなりやすいです。(例えば、R6年は問4でアセトアルデヒドと亜酸化窒素の性質や工業的製造方法を問われています。)
一方、甲種機械で問われる金属腐食や溶接に関する知識であれば、全ての工場で活かせる知識と言って過言ではないでしょう。開発職であっても、SUS304にとって塩素は大敵であることや、強い応力がかかる溶接点から腐食が始まりやすいことはプラント現場やプラントエンジニアとのスムーズな会話には必須の知識でしょう。甲種機械の試験勉強を通じて、金属に関する知識を得やすいことがメリットの2つ目です。
まとめ
このページでは、化学専攻であっても、甲種化学ではなく甲種機械で受験するメリットを独断と偏見を元にご紹介しました。
化学専攻の出身者が高圧ガスの資格を受験する場合、甲種化学で受験する場合が多いかもしれません。しかし、甲種機械の方が、化学工場で頻出の化学工学の計算に慣れることができるので、化学専攻の方であっても、高圧ガスの試験は甲種機械での受験を個人的にお勧めします。