大学の定期テストや大学院入試では熱力学の関係式を示す問題がよく出題されます。
熱力学の証明問題はMaxwellの式や自然な変数、偏微分の公式などをいつ、どのように使うか分かりにくいので、難しいと感じていませんか?
しかし、実はほとんどの熱力学の関係式は4つの方針を利用すると機械的に導くことができます。このページでは、エネルギー方程式とマイヤーの式の証明を通して、熱力学の関係式をスムーズに導くための方針をご紹介します。
熱力学の関係式は4つの方針で証明できる
早速、熱力学の関係式を証明する際に便利な4つの方針をご紹介します。
- $U,H,F,G$は自然な変数の全微分の式から始める
- $\Bigl(\frac{\partial\diamondsuit}{\partial\square}\Bigl)_{\triangle}$から2つの変数を考える(変数の捉えなおし)
- Maxwellの式はなるべく遅く使う
- 偏微分の公式は最後の方(または困ったとき)に使う

この方針を使うと、いわゆる「作業ゲー」で熱力学の関係式をほとんど証明できます
次からのセクションではこの4つの方針を利用して有名な関係式(エネルギー方程式とマイヤーの関係式)を証明します。
- $\Bigl(\frac{\partial{U}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}=T\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}-P$ (エネルギー方程式)
- $C_P-C_V=\frac{TV\beta^2}{\kappa_T}$ (マイヤーの関係式)
エネルギー方程式の証明
それでは「4つの方針」に従って、まずエネルギー方程式$\Bigl(\frac{\partial{U}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}=T\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}-P$を示しましょう。
左辺の$U$があるので、「方針1:$U,H,F,G$は全微分の式から始める」に従って、$U$を自然な変数で表したときの全微分の式を考えましょう。
そこで$U$を自然な変数$S,V$で全微分した式$\text{d}U=T\text{d}S-P\text{d}V$から証明を出発します。
次に、左辺が$\Bigl(\frac{\partial{U}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}$なので、$U$を変数$V,T$で表す必要があります。

方針1の段階で$\text{d}U=T\text{d}S-P\text{d}V$が得られているので、$\text{d}S$を$\text{d}V$と$\text{d}T$の関数で表せばよいことになります。
$\text{d}S$を$\text{d}V$と$\text{d}T$の関数で表すために、$S$を$S(T,V)$と考えることで$\text{d}S=\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}\text{d}T+\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}\text{d}V$を作ります。
これを$\text{d}U=T\text{d}S-P\text{d}V$に代入すると$\text{d}U=T\Bigl\{\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}\text{d}T+\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}\text{d}V\Bigl\}$$-P\text{d}V$が得られます。

$U(S,V)$から始めたけど、実は$S$は$V,T$の関数$S(V,T)$だったと考えて、$U(S(V,T),T)$とすることで$U(V,T)$を作るんだね。

この「変数の捉えなおし」はこの後のマイヤーの式でも利用します。熱力学の関係式の証明には欠かせない道具です。
この式を利用して$T$一定、つまり$\text{d}T=0$として両辺を$\text{d}V$で割ることで$\Bigl(\frac{\partial{U}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}=T\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}-P$が得られます。
そろそろ「Maxwellの式」を使います。
今回は$\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}$が出てきたので$\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}=\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}$を使いましょう。
これを利用すると結局$\Bigl(\frac{\partial{U}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}=T\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}-P$になり、エネルギー方程式が証明できました。

エネルギー方程式では「方針4:偏微分の公式は最後の方に使う」は使わずに証明できました。
証明まとめはこちら

マイヤーの式の証明
次にマイヤーの式$C_P-C_V=\frac{TV\beta^2}{\kappa_T}$を示しましょう。ただし、$\beta$は体積膨張率$\beta=\frac{1}{V}\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{T}}\Bigl)_P$で、$\kappa_T$は等温圧縮率$\kappa_T=-\frac{1}{V}\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{P}}\Bigl)_T$です。
熱容量の定義$C_P=T\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_P$などを代入すると、$T\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_P-T\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_V=-T\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{V}}\Bigl)_T$$\Bigl\{\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{T}}\Bigl)_P\Bigl\}^2$を示せばよいことになります。
それでは4つの方針に従って証明していきましょう。

マイヤーの式は$U,H,F,G$が無いので、方針1は使用せず、方針2から証明を始めます。
左辺に$\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_P$があるので、まずは$S$を$S(T,P)$と捉えましょう。
この場合、$\text{d}S=\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_{P}\text{d}T+\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{P}}\Bigl)_{T}\text{d}P$とできます。
一方で、左辺には$\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_V$もあるので、$S$を$T,V$で表す必要もあります。
そこで、先に$S$を$S(T,P)$としていましたが、実は$P=P(T,V)$であったと考えることで$S=S(T,P(T,V))$と$S$を$T,V$の関数と捉えなおしましょう。

「変数の捉えなおし」はエネルギー方程式の証明でも利用したね

この「変数の捉えなおし」は熱力学の関係式を導く際に非常に重要です。
今の場合、$\text{d}P=\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}\text{d}T+\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}\text{d}V$を$\text{d}S$の式に代入すると、$\text{d}S=\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_{P}\text{d}T$$+\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{P}}\Bigl)_{T}\Bigl\{\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}\text{d}T+\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}\text{d}V\Bigl\}$とできます。
この式を利用して$V$一定、つまり$\text{d}V=0$として両辺を$\text{d}T$で割ることで$\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}=\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{T}}\Bigl)_{P}+\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{P}}\Bigl)_{T}\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}$が得られます。
つまり、$左辺=-T\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{P}}\Bigl)_{T}\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}$まで変形できました。
そろそろ「Maxwellの式」$\Bigl(\frac{\partial{S}}{\partial{P}}\Bigl)_{T}=-\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{T}}\Bigl)_{P}$を利用しましょう。
すると$左辺=T\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{T}}\Bigl)_{P}\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}$になります。
最後に偏微分の公式を使いましょう。
最もよく使う偏微分の公式は$\Bigl(\frac{\partial{x}}{\partial{y}}\Bigl)_{z}\Bigl(\frac{\partial{y}}{\partial{z}}\Bigl)_{x}\Bigl(\frac{\partial{z}}{\partial{x}}\Bigl)_{y}=-1$です。
$x=P,y=T,z=V$とすると、$\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{T}}\Bigl)_{V}=-\frac{\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{T}}\Bigl)_{P}}{\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{P}}\Bigl)_{T}}=-\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{V}}\Bigl)_{T}\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{T}}\Bigl)_{P}$とできます。
これを代入すると結局、$左辺=-T\Bigl(\frac{\partial{P}}{\partial{V}}\Bigl)_T\Bigl\{\Bigl(\frac{\partial{V}}{\partial{T}}\Bigl)_P\Bigl\}^2=右辺$となるので、無事マイヤーの式$C_P-C_V=\frac{TV\beta^2}{\kappa_T}$が示されたことになります。
証明のまとめはこちら

まとめ
このページでは、エネルギー方程式とマイヤーの式の証明を通して、熱力学の関係式をスムーズに導くための方針をご紹介しました。
Maxwellの式や自然な変数、偏微分の公式などをいつ、どのように使えばよいかが分かりにくいので、熱力学の関係式の証明は一見難しそうですが、実は簡単です。
熱力学の関係式を証明する問題はたくさんあるので、皆さんもこのページで紹介した4つの方針を試してみてください。