【見ればわかる】T-S線図で熱機関の効率の良しあしを調べよう

T-S線図を使うと熱機関の効率が一目でわかります

T-S線図はP-V線図よりもなじみが薄いかたも多いかと思いますが、実はT-S線図を使うと熱サイクルの効率がなぜ低下するかを視覚的に知ることができます。

このページではカルノーサイクルの特徴を簡単におさらいした後、カルノーサイクルがT-S線図ではきれいな長方形で表されることを紹介し、一般のサイクルよりも高効率になることを図形的に説明します。

最終的には、一般のサイクルとしてオットーサイクルを例にしてなぜ熱効率が下がるかをT-S線図で視覚的に捉えてみましょう。

目次

【復習】カルノーサイクルを簡単に復習

カルノーサイクルには以下のような重要な特徴があります。

  • 厳密に温源が2つの可逆工程だけのため、熱効率が最大

さくっと復習しましょう

例えば、次のようなサイクルの場合、温度$T_1$とT_2$以外においても熱機関が外部と熱のやり取り(吸熱)を行っています。そのため、このサイクルでは温源が2つにはなりません。

熱サイクルの例
一般のサイクルは温源が無数にある

一方、カルノーサイクルでは厳密に温源が2つで、すべてが可逆工程です。そのため、低温源$T_1$と高温源$T_2$を用いて右の図のようにサイクルをモデル化することができます。

カルノーサイクルの図
カルノーは厳密に温源が2つ

そのため、カルノーサイクルは$T_1\sim{T_2}$の範囲で稼働するサイクルの中では効率が最大($\eta=1-\frac{T_2}{T_1}$)になります。

カルノーの定理からこのサイクルの効率を上回ることはできません

T-S線図からカルノーサイクルの重要性がわかる

T-S線図を使うと効率を視覚的に捉えられる

$T$-$S$線図を使うと視覚的に熱機関サイクルの効率の良しあしがわかります。

$T$-$S$線図は温度$T$を横軸、エントロピー$S$を縦軸にとったもので、カルノーサイクルは等温変化($T$一定)と断熱変化($S$一定)しかないため、$T$-$S$線図では長方形の形になります。

カルノーサイクル_T-S図
カルノーサイクルは$T$-$S$線図で形が長方形になる

状態$1$から$2$に至るまで熱機関が受け取る熱量を$Q=\int^2_1T\text{d}S$で得ることができるので、カルノーサイクルにおける熱のやり取りは$\eta=1-\frac{Q_\text{out}}{Q_\text{in}}=\frac{面積Z}{面積W+Z}$になります。

熱量計算
$T$-$S$線図から熱量を計算できる

カルノーサイクルの$T$-$S$線図はとてもシンプルなんだね

カルノーサイクルが高効率になるのは図形でわかる

カルノーサイクルの$T$-$S$線図は長方形で表されるため、任意のサイクルをカルノーサイクルできれいに囲むことができます。そのため、図形的に$面積{W^C}\gt面積{W^U}$と$面積{Z^C}\lt面積{Z^U}$が言えます。

カルノーサイクルと一般サイクルのTS図
カルノーサイクルは一般のサイクルより高効率

サイクルの熱効率$\eta=\frac{面積W}{面積W+Z}$なので、一般サイクルの効率はカルノーサイクルの効率よりも必ず小さくなることが一目でわかります。

要するに$T$-$S$線図が長方形に近づくほど効率が上がるんだね

$T$-$S$線図によって、どの工程によって熱効率が低下するかを視覚的に把握することができます。

オットーサイクルとカルノーサイクルの比較

オットーサイクルが効率が低い原因はT-S線図から分かる

オットーサイクルは内燃式ピストン機関とも呼ばれ、ガソリン車のエンジンサイクルモデルです。熱の受け渡しが機関の内側で行われます。

ガソリンがシリンダーの内で燃えることで熱をもらうので内燃式です。

内燃式の反対は外燃式です。スターリングエンジンなどが外燃式です。

オットーサイクルを使った内燃式機関は断熱膨張・圧縮と等積昇温・降温でモデル化されます。そのため、$p$-$V$線図と$T$-$S$線図は次のようになります。

オットーサイクルのPV_TS線図
オットーサイクルの$P$-$V$線図と$T$-$S$線図

$T-S$線図を見ると、オットーサイクル($1\to2\to3\to4$)は同じ温度領域のカルノーサイクル($1^\prime\to2\to3^\prime\to4$)を表す長方形に比べると等積昇温、高温の工程によって領域がかなり小さくなるため、オットーサイクルの熱効率はカルノーサイクルより劣ることが視覚的にわかります。

圧縮比を上げると高効率になる理由もT-S線図から分かる

オットーサイクルの熱効率は$\eta=1-\frac{T_4-T_2}{T_3-T_2}=1-(\frac{1}{\epsilon})^{\kappa-1}$です($\epsilon$は圧縮比、$\kappa$は比熱比)。オットーサイクルは圧縮比が上がると高効率になりますが、これも$T$-$S$線図を使えば図形的に示すことができます。

圧縮比別のオットーサイクル
オットーサイクルは高圧縮にするほど効率が上がる

オットーサイクルではピストン内で決まった量のガソリンが燃えることから圧縮比に寄らず、吸熱量が同じになります。そのため、図の面積$a12b$と面積$a1^\prime2^\prime{b}^\prime$は等しくなるので、共通部分を除くと面積$X$=面積$Y+Z$です。

高圧縮と低圧縮の仕事量は面積$4123$と面積$41^\prime2^\prime3^\prime$ので、共通部分を除くと面積$X$と面積$Y$で比較できますが、面積$X=$面積$Y+Z$なので、面積$X\gt$面積$Y+Z$です。

そのため吸熱量$Q_\text{in}$は同じですが、仕事量は$W_{高}\gt{W}_{低}$なので、オットーサイクルは高圧縮にした方が効率が上がります。

まとめ

このページではカルノーサイクルの特徴を簡単におさらいした後、カルノーサイクルが$T$-$S$線図では長方形で表されることを紹介しました。

そのため、カルノーサイクルの長方形を利用すると必ず一般のサイクルを内包できることから、カルノーサイクルの効率が最も高くなります。

$T$-$S$線図を用いることで、どの工程によってサイクルの効率が低下しているかを視覚的に把握できます。皆さんも熱サイクルを見た際は一度$T$-$S$線図上で表すことで、効率の良しあしを視覚的に捉えてみてください。

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