2成分の蒸留計算に比べて、3成分以上の蒸留計算はあまり取り扱われませんが、実際の蒸留塔においては多成分の蒸留がほとんどを占めています。
このページでは、FORTRANによるプログラムを利用して計算した多成分の蒸留例を紹介します。
3成分の蒸留計算
このページでは、以下のプログラム(FORTRAN)を用いて蒸留計算を行いました。
プログラムの利用方法
サイトの仕様上、拡張子「f」ではアップロードできなかったので、「txt」ファイルでダウンロードできるようにしています。プログラムの中身を確認後、問題なければ拡張子を「f」に変更してください。プログラム利用後に問題が起きても当サイトでは責任は負いません。
コンパイルは次のコードで実行できます。(fortranのコンパイラとlapack環境が必要です。)
gfortran COLUMN.f -llapack -lblas
./a.out input_COLUMN.txt
実行ファイルに計算条件を記載したinputを読み込ませることで蒸留計算が実行されます。inputファイルの例は次です。
まずは3成分(メタノール/エタノール/水)の蒸留を考えてみましょう。

微小成分の水を塔底から排出し、塔頂からメタノールを取り出すプロセスとします。
成分 | メタノール/エタノール/水 |
FEED組成(mol比) | 0.45/0.50/0.05 |
蒸留段数 | 21 |
FEED段 | 13 |
FEED流量(mol/hr) | 10.0 |
蒸留塔上部の流出量(mol/hr) | 1.5 |
還流比 | 6.0 |
プログラミングを利用して蒸留計算を行った結果は下の図のようになります。


蒸留の計算結果は縦軸に蒸留段数(上が塔頂、下が塔底)を取り、組成と塔内温度を横軸にとるのが一般的です。

慣れてくるとこの軸のほうが見やすく感じるようになったよ。
メタノール/エタノール/水の混合物の場合、水とエタノールのモル濃度が塔底に向かって単純増加、メタノールのモル濃度が塔頂に向かって単純増加していることが分かります。
また、温度は塔頂が約68℃、塔底が約74℃とほぼメタノールとエタノールの沸点に一致しています。

蒸留計算がうまく収束しないと、計算結果の温度分布が単純増加せずに計算が終了することがありますので、温度プロファイルは必ず確認が必要です。
4成分の蒸留計算
次に、MeOH、1-Propanol、2-Butanol、水に対する 蒸留計算を行ってみましょう。

この場合、組成が単純増加、減少しなくなりますよ。
成分数 | 4 |
成分 | MEOH/2-PrOH/1-BuOH/H2O |
FEED組成(mol比) | 0.2,0.5,0.25,0.05 |
蒸留段数 | 21 |
FEED段 | 13 |
FEED流量(mol/hr) | 10.0 |
蒸留塔上部の流出量(mol/hr) | 1.5 |
還流比 | 2.0 |
計算結果をグラフ化するとこちらになります。

蒸留計算を行うとFEED段の上部と下部では濃度勾配が大きく異なることが分かります。

これはFEED段下部では液流量が増えるためです。
また、2-Propanolは出口モル比は上部で0.4以下、下部で0.5程度ですが、蒸留塔の中上段では0.7程度まで濃縮しています。

蒸留塔内部では一部の成分が濃縮して、副反応による新たな不純物の生成や反応暴走が起こり得るから、注意が必要だね。

蒸留塔における第三成分の濃縮による事故は1991年6月のライオン株式会社の事故などがあります。
共沸系の蒸留計算
最後にMeOH-WATERとEtOH-WATERの蒸留を行い、蒸留塔内の共沸を見てみましょう。
成分数 | 2 |
成分 | MEOH(またはETOH)/H2O |
FEED組成(mol比) | 0.75,0.25 |
蒸留段数 | 21 |
FEED段 | 17 |
FEED流量(mol/hr) | 10.0 |
蒸留塔上部の流出量(mol/hr) | 1.0 |
還流比 | 5.0 |


MeOH-WATER系では、素早くMeOH 100%液が得られている一方で、EtOH-WATER系はEtOH 88mol%程度からなかなか濃縮が進んでいません。

これは共沸現象と呼ばれており、実プラントでの蒸留においても挙動の予測が難しく、生産における課題にしばしばなります。