化学工場で製品の温度を上げ下げするためには多数のtubeを利用する多管式熱交換器が欠かせません。
多管式熱交換器には「総括伝熱係数U」や「伝熱面積A」という重要な概念がありますが、皆さんは伝熱面積はtubeの内径、外径どちらを使うのが正解か分かりますか?

熱交換器のtubeには厚みがあるので、内径で伝熱面積を出すのか、あるいは外径を利用するのか悩んだことがあります。
このページでは、多管式熱交換器における総括伝熱係数Uなどを紹介しつつ、熱交換器に関してよくある疑問3つについて解説します。
総括伝熱係数を計算するには
まず、「tubeの伝熱面積は内面積、外面積どちらを使うのが正解か?」という問題ですが、答えは「どちらでもよい」が正解です。

詳細は次のセクションで解説しますので、まずは総括伝熱係数Uの求め方をおさらいしましょう
熱交換器の総括伝熱係数$U$を計算するには、「tube外面での伝熱」「tubeでの伝熱」「tube内面での伝熱」の3つを足し合わせて考える必要があります。
いま、tube壁を挟んだ両側に流体が流れ、(高温)流体1から(低温)流体2に壁を介して熱が移動しているとします。(壁面$1,2$での伝熱係数$h_1,h_2$と壁内部の伝熱係数$k$とします)

すると、「tube外面での伝熱量」は$q_1=h_1A_1(T_1-T_{w1})$、「tubeでの伝熱量」は$q_2=\frac{k}{D}A_{\text{LM}}(T_{w1}-T_{w2})$、「tube内面での伝熱量」は$q_3=h_2A_2(T_{w2}-T_2)$になります。(ここで、$A_{\text{LM}}$は対数平均面積$A_{\text{LM}}=(A_1-A_2)/\ln(A_1/A_2)$です)
定常状態では各領域の温度は一定なので、$q_1=q_2=q_3$とならなければなりません。

$q_1=q_2=q_3$になっていないと、例えばtube壁温度が上がっていってしまいます。
したがって、$Q=h_1A_1(T_1-T_{w1})$$=\frac{k}{D}A_{\text{LM}}(T_{w1}-T_{w2})$$=h_2A_2(T_{w2}-T_2)$なので、この式から$T_{w1}$と$T_{w2}$を消去すると、$Q=(T_1-T_2)/(\frac{1}{h_HA_1}+\frac{D}{kA_{\text{LM}}}+\frac{1}{h_2A_2})$が得られます。
つまり、$\frac{1}{U_1}=\frac{1}{h_1}+\frac{DA_1}{kA_{\text{LM}}}+\frac{A_1}{h_CA_2}$とすると、$Q=U_1A_1(T_1-T_2)$とできます。この$U_1$は$A_1$面基準の総括伝熱係数です。
逆に、$\frac{1}{U_2}=\frac{A_2}{h_1A_1}+\frac{DA_2}{kA_{\text{LM}}}+\frac{1}{h_2}$とすると、$Q=U_2A_2(T_1-T_2)$ともできます。この$U_2$は$A_2$面基準の総括伝熱係数です。

総括伝熱係数(とその周辺)の疑問

ここからは、総括伝熱係数$U$や伝熱量$Q=UA\Delta{T}$について、私が大学生時代に疑問に思っていたことを3つ紹介します。
$Q=UA\Delta{T}_{\text{LM}}$の$A$は伝熱管の内面積、外面積どちらか?

$Q=UA\Delta{T}_{\text{LM}}$の$A$は伝熱管の内面積、外面積どちらなの?

内面、外面どちらを選んでもよいですが、$U$も$A$とセットで基準面を合わせなければなりません。
先ほどのセクションで解説した通り、1つの式$Q=(T_1-T_2)/(\frac{1}{h_HA_1}+\frac{D}{kA_{\text{LM}}}+\frac{1}{h_2A_2})$のまとめ方の違いで2つの式$\frac{1}{U_1}=\frac{1}{h_1}+\frac{DA_1}{kA_{\text{LM}}}+\frac{A_1}{h_CA_2}$と$\frac{1}{U_2}=\frac{A_2}{h_1A_1}+\frac{DA_2}{kA_{\text{LM}}}+\frac{1}{h_2}$が出てきました。

確かに、基準面を変えているだけだから、$U_1A_1=U_2A_2$になっているね。
実は、公式$Q=UA\Delta{T}_{\text{LM}}$をわかりやすく書くと、$Q=U_{内面}A_{内面}\Delta{T}_{\text{LM}}$(または、$Q=U_{外面}A_{外面}\Delta{T}_{\text{LM}}$)になります。
そのため、内面、外面のどちらを選んでもよいですが、内面基準の$U$を選んだ場合は$A$は内面積を選び、逆に外面基準の$U$を選んだ場合は$A$は外面積を選ぶ必要があります。

内面基準の$U_{内面}$と外面基準の$U_{外面}$は別の値になるんだね。



なお、$U$値として概略値を利用する際であれば、伝熱管の内面積、外面積の差を気にする段階ではない」というのが私の考えです。
総括伝熱係数の概略値には幅があるが、平均値を採用してよい?
尾花英明著の「熱交換器設計ハンドブック」や、中島敏ら著の「食品工業の伝熱と蒸発」等に示されている熱交換器の総括伝熱係数の概略値は、かなりの幅を持っています。
高温流体 | 低温流体 | 総括伝熱係数$U$ ($\text{kcal/m}^2\cdot\text{hr}\cdot\text{K}$) |
水 | 水 | $1200~2500$ |
有機物質,粘度0.5cP | 水 | $3500~750$ |
有機物質,粘度0.5~1.0cP | 水 | $250~600$ |
有機物質,粘度1cP以上 | 水 | $25~400$ |

総括伝熱係数$U$の概略値には幅があるけど、設計のときは平均値を使えばよいの?

総括伝熱係数は流体の状態で値が大きく変わります。そのため、表の概略値は詳細設計には使えません
結論として、総括伝熱係数の概略値を使う際は計算の精度は期待できません。なぜなら、総括伝熱係数は流体の種類だけでなく、流速や温度によっても複雑に変化するからです。
総括伝熱係数の概略値から熱交換器での交換熱量を計算した場合、計算結果の精度はかなり低いです。そのため、「概略値の幅の中から何を採用すればよいか」を考えるよりも、Dittus-Boelterの関係式などを利用して$U$の値を丁寧に見積もる方がよいです。
2パス型の熱交換器の場合、$Q=UA\Delta{T}_{\text{LM}}$は使えないのか?

$Q=UA\Delta{T}$の式は往復型の熱交換器には使えないの?

複雑な形状の場合は、補正係数$F_r$がよく利用されます
1シェル2チューブ型や2シェル6チューブ型のように、複雑な形状の熱交換器では$Q=UA\Delta{T}_{\text{LM}}$は使えません。
しかし、対数平均温度$\Delta{T}_{\text{LM}}$をファクター$F_r$で補正した式$Q=UAF_r\Delta{T}_{\text{LM}}$を使えばチューブが往復するような熱交換器でも交換熱量$Q$を計算することができます。

まとめ
このページでは、多管式熱交換器における総括伝熱係数Uなどを紹介しつつ、熱交換器に関してよくある疑問について解説しました。
熱交換器において「総括伝熱係数U」や「伝熱面積A」という重要な言葉を知らない方は少ないかと思いますが、「内面積、外面積をどちらにとるか」や「2パス型の熱交換器に使えるか」などにも答えられるようにしましょう。