工場では多くのポンプ(遠心ポンプなど)や回転機器(アジテーターなど)があります。そのほとんどではかご型誘導機が利用されていますが、電気的な機器である誘導機は知らない化学者も多いのではないでしょうか?
かご型誘導機は化学工場だけでなく様々な分野に使われている非常に汎用性の高いモーターです。これは、「回転する磁場中にかご型の導体を置くと、かご型導体は自発的に回りだす」という構造的なシンプルさがあるためです。
このページでは3相交流電源の紹介から始めて、かご型の誘導機の基本的なメリット3つをご紹介します。
誘導機とは
工場では遠心ポンプ、ダイヤフラムポンプから撹拌機、スクリューコンベアに至るまで幅広く回転機器が活躍しています。
これらの機器はほとんどで「かご型誘導機」と呼ばれるモーターが使われています。その理由は、かご型誘導機には次のようなメリットがあるためです。
- 構造が簡単で堅牢
- 「すべり」によってトルクが生じ、回転数の厳密な制御が不要
- 幅広い大きさのモーター($1~100\text{kW}$程度)が汎用品で手に入る
これらのメリットはほかのモーター(直流機や同期機)と比較したときのメリットです。次から各メリットを紹介します。
構造が簡単で堅牢、3相交流電源につなぐだけで回る
工場にある多くのモーターは「3相交流電源」を利用して回る誘導機です。家庭用の電源は単相(プラスとマイナス)ですが、工業用の電源には3相電源(s相、t相、u相)が利用されます。
家庭用の電気も電柱にある変圧器までは3相電源として届けられています
3相電源のコイルを配置することで回転磁場を作ることができます。これがモーターを回転させる力の源です。
誘導機ではこの回転磁場中にアルミニウムなどを円いかご状に成型させたもの(ローター)を配置させます。
これが「かご型誘導機」の語源だね
驚くことに、このかご型のローターは単なる導体でできたものに過ぎませんが、回転磁場を感じると自然に回りはじめます。これは導体が磁場の変化を感じると、その変化を打ち消すように電流を発生させるため、電磁力により回転トルクが発生するためです。
自然に回りだすのはとても便利だね
単相電源でも回転磁場を作ってモーターを回転させられますが(扇風機等に利用)、3相電源の方が効率が良いです。
誘導機の回転子は導体をかご型にさせただけで、作りが簡便なので故障が少ないというメリットがあります。
一方、同期機のローターには電磁石などが利用されます。ブラシなどの消耗品が必要など、構造は複雑になります。
「すべり」によってトルクが生じ、回転数の厳密な制御が不要
とても重要なポイントですが、誘導機では回転磁場(例えば4極、60Hzだと1800rpm)と同じ速度でモーターが回る必要はありません。その都度必要なトルクに合わせて(成り行きで)回転磁場の0.2~2%程度遅い速度で回っています。
このことは例えば「すべり1%で運転する誘導機」と表現されます。
逆に同期機は回転磁場と同じ回転数で回る必要があります。
むしろ、誘導機はこの「すべり」がトルクの源泉です。低いすべり領域ではトルクとすべりには比例の関係があります。
すべりがないと回転トルクは発生しないんだね。
化学工場において、ポンプや撹拌機を厳密な回転数で制御する必要はほとんどありません。そのため、厳密な回転数制御が不要な誘導機モーターが用いられることがほとんどです。
幅広い大きさのモーター(1~100kW程度)が安価で手に入る
同期機ではものすごい小さいモーター(腕時計サイズ)かものすごい大きいモーター(発電所レベル)の場合が多いです。そのため、低い流量のポンプには1kW程度のモーターを、大型タンクの撹拌機には100kWのモーターを、などと幅広い選択肢を持つ誘導機が重宝されます。
【参考】同期機のいいところ
化学工場で同期機が活躍する場面はあまり多くありませんが、同期機にももちろん誘導機にはないメリットがあります。
同期機の大きなメリットは「力率を進みも含めて制御できる」点です。
電気の力率は様々な要因によって変動します。誘導機を数多く使うと力率は遅れ方向に傾きます。逆に進相コンデンサーを数多く稼働させると力率は進みます。
力率が遅れすぎると同じ電力値を供給するのに多くの電流が必要になってしまうよね。
力率が進みすぎると顧客側の電圧が元電圧よりも高くなってしまいます(フェランチ効果)
電力会社はそのような力率の増減を把握し、同期機を用いて力率が遅れすぎたり進みすぎたりしないように調整しています。
まとめ
このページでは、3相交流電源の紹介から始めて、かご型の誘導機のメリット3つをご紹介しました。
かご型誘導機は化学工場だけでなく様々な分野に使われている非常に汎用性の高いモーターです。これは、3相交流電源を使うことで回転磁場を簡単に作ることができ、さらに回転磁場にかご型の導体を置くことで自発的にモーターが回りだすというシンプルさに寄ります。
このページではかご型誘導機の初歩の初歩にとどめましたが、かご型誘導機は「すべりとトルクの関係」や「モデル回路の作成」、「発電機としての利用」などまだまだ奥深い分野ですので、また記事にしていきたいと思います。