NPSH不足で起きる現象5つ|キャビテーション対策

ポンプの「異音がする」「振動が増えた」「流量が出ない」といったトラブルの裏に、NPSH不足(吸い込み側の圧力余裕不足)が隠れていることは少なくありません。

NPSHとは、キャビテーションを避けてポンプが安定的に運転できるかを調べる指標のことです。しかし、「NPSH・NPSHa・NPSHrの違いが曖昧」「計算式は知っているが現場で何を見ればいいか分からない」という疑問を持ちがちです。

このページでは、NPSHの意味や計算方法だけでなく、NPSHが不足することで起こるキャビテーションまで解説します。

目次

NPSHとは?読み方・意味をわかりやすく解説

NPSH(Net/Positive/Suction/Head)の意味

ポンプを使って液体を送液するときに起こる問題として、キャビテーションがあります。キャビテーションはポンプ内部で液体の蒸発等によって気泡が発生する現象のことで、ポンプの騒音、振動の原因になるものです。

このキャビテーションを避けてポンプが安定的に運転できるか調べる指標がNPSHです。

NPSHはNet Positive Suction Headの略で、「正味有効吸込みヘッド」「正味吸込ヘッド」などと呼ばれ、単位は$\text{m}$(液柱メートル)で表します。

NPSHの単位がヘッド($\text{m}$)なのはなぜなの?

$\text{m}$で表すことで、流体の密度が変わっても比較しやすく、配管損失($\text{m}$)などとも足し引きで考えられるのがヘッド表現の利点です。

ポンプ性能におけるNPSHの役割:必要NPSH(NPSHr)と有効NPSH(NPSHa)

さて、NPSHの説明を始めるのですが、そもそもですが、NPSHには2種類あります。NPSHa(有効NPSH)とNPSHr(必要NPSH)です。

ここを混同すると混乱の元になります。

まず、NPSHr(required)は「ポンプがキャビテーションを起こさないために必要な値」で、ポンプメーカーがカタログで示すポンプ固有のスペック値です。そのため、NPSHrはポンプ購入後は変更できません。

NPSHrの具体例は本多機工株式会社のHP株式会社シンコーのHPなどのカタログを参考になります。だいたいNPSHrは1~3mくらいが多いです

ポンプ
NPSHrはポンプ固有のスペック値です

一方、NPSHa(available)は「設置条件・運転条件から計算できる値」で、タンク液面、配管損失、温度、吸込圧などで決まります。単にNPSHをいうと、NPSHaのことを言っている場合も多いです。

NPSHaとは
NPSHaは設置条件や運転条件によって決まります

NPSHaのポイントは「ポンプが液体をどの程度吸いやすいか」を圧力($\text{Pa}$)ではなくヘッド($\text{m}$)として見ていることです。NPSHaが不足すると、吸込側で蒸気泡の発生・崩壊(キャビテーションという)が起き、ポンプの性能低下や損傷につながります。

NPSHとは
NPSHaはポンプが余裕で吸えるかの指標です

基本の計算式:NPSHa=(吸込側の絶対圧)−(飽和蒸気圧)

キャビテーションの原因は「液体が局所的に沸騰する」ことです。

そのため、吸い込み側の圧力が高い(加圧タンクなど)の方がキャビテーションは発生しにくくなります。逆に、高圧液体の飽和蒸気圧が高い(軽沸点物や高温)ほどキャビテーションは発生しやすくなります。

そのため、NPSHaの基本式は「NPSHa =(吸込側の絶対圧$P$)−(飽和蒸気圧$P_{\text{v}}$)」になります。吸込側での圧力(大気圧やタンク圧+液面差など)から、飽和蒸気圧分を引いたものがNPSHaなのです。

NPSHaは「飽和蒸気圧を引く」のが一番のポイントだね

圧力$P(\text{Pa})$は$h=P/\rho{g}$によって液柱高さ$h(\text{m})$に換算できます。

そのうえで、NPSHaはポンプ手前における「正味」の有効ヘッドのことなので、吸い込み揚程(液面高さからポンプまでの高さ)$h_s$や、ポンプまでの圧力損失$\Delta{P}_l$も引く必要があります。つまり、$h_{\text{a}}={P/\rho{g}}-{P_\text{v}/\rho{g}}-h_s-\Delta{P}_l/\rho{g}$です。

NPSH計算方法

例えば液面から$5\text{m}$高いところにポンプを置いたら$h_s=5$だね

圧力損失が$\Delta{P}(\text{MPa})$あったとしたら、$h_l=\Delta{P}/\rho{g}$も加味しなければなりません。

設計の際や、実際の現場では、NPSHaを計算(または測定)し、NPSHa>NPSHrであるかを確認しなければなりません。

落とし穴として、NPSHaを液面やポンプの位置(高さ)だけで判断しがちですが、温度(蒸気圧)や配管損失も含めて「正味」で考えるのがポイントです。もし、NPSHa>NPSHrとなっていない場合、ポンプ自体は正常でも“設備条件が悪くて”キャビテーションが発生します。

NPSH不足で起きる現象:キャビテーションの典型症状5つ

NPSHa不足は、単に「キャビテーションが起きる」で終わりません。初期は軽微な異音や微振動として現れ、放置すると性能低下、部品損傷、制御不安定、最終的には吸込不能に至ることもあります。

厄介なのは、症状が「ベアリング不良」「配管共振」「エア噛み」など別原因に見える場合がある点です。

複数が同時に出ることも多いため、単発の症状で判断せず、運転条件(温度・液面・流量)との相関で見極めるのが重要です。

現象1:異音・振動(沸騰に近い蒸気泡の崩壊によるキャビテーション)

NPSHaが不足すると、ポンプ入口付近で局所的に圧力が飽和蒸気圧を下回り、液体が“沸騰に近い状態”で蒸気泡を作ります。その泡が高圧側へ移動して一気に潰れる(崩壊する)と、微小な衝撃波が発生し、砂利を噛んだような「ジャリジャリ」「バリバリ」といった異音や、周期的な振動として現れます。

初期は運転点(流量)を変えると音が消えることもありますが、根本原因がNPSHa不足のままだと再発します。振動は軸受やメカシールにも負担を与え、二次故障(漏れ・焼付き)を誘発するため、早期に原因切り分けする価値が高い症状です。

現象2:流量・揚程(ヘッド)低下で能力が出ない

キャビテーションが発生すると、羽根車入口で液体が連続的に満たされず、実質的に“気体を含んだ流れ”になります。その結果、ポンプが液体に与えられるエネルギーが減り、揚程(ヘッド)が低下し、狙った流量が出なくなります。

現場では「バルブを開けても流量が伸びない」「吐出圧が上がらない」「性能曲線より明らかに低い」といった形で表面化します。特に流量を上げたときに悪化しやすいのは、一般に流量増加でNPSHrが増える一方、配管損失も増えてNPSHaが減る方向に働くためです。

能力不足をポンプの劣化と決めつけず、NPSHaの余裕を疑うことが重要です。

現象3:羽根車や部品の損傷(エロージョン)で機器寿命が縮む

蒸気泡の崩壊は、金属表面に微小な衝撃を繰り返し与えます。これが進行すると、羽根車入口やケーシング内面にピッティング(点食状の穴)や、えぐれたような損傷が生じ、いわゆるキャビテーションエロージョンになります。

損傷が進むと表面粗さが増え、効率低下→さらに運転点がずれて悪化、という悪循環に入ります。また、損傷粉が循環して二次摩耗を起こしたり、クリアランス増大で内部漏れが増えたりして、性能が戻らなくなることもあります。

「音がするだけ」と軽視すると、部品交換や長期停止につながるため、早期対策が結果的に最も安く済みます。

現象4:圧力脈動で運転が不安定、油圧・制御系にも影響

キャビテーションは発生と崩壊が連続するため、吸込・吐出の圧力が細かく脈動しやすくなります。この圧力脈動は、流量計の値がふらつく、制御弁がハンチングする、インバータ制御が落ち着かないなど、制御系の不安定として現れることがあります。

また、配管系の固有振動数と重なると共振し、配管支持部の緩みや疲労、フランジ部の漏れなど機械的トラブルに波及することもあります。油圧系や高圧洗浄など、圧力品質が重要な系では製品品質や工程安定性にも直結します。

単なるポンプ単体の問題ではなく、系全体の安定運転を崩す要因としてNPSHa不足を捉える必要があります。

現象5:吸い込み不良〜吸込不能(気液混相・蒸気ロック)

NPSHa不足が深刻になると、吸込側で発生した蒸気が増え、ポンプ入口が気液混相になって“液体を掴めない”状態に近づきます。この状態では、吐出圧が急落したり、流量が断続的になったりし、最悪の場合は吸込不能(実質的な蒸気ロック)に至ります。

特に高温液、揮発性液、密閉タンクで吸込圧が低い系では起きやすく、運転を続けるほど温度上昇でさらに悪化することがあります。また、エア噛み(外部から空気が混入)と症状が似るため、吸込配管の漏れ点検と合わせて、温度・液面・吸込圧の変化を同時に確認するのが有効です。

吸込不能は安全面・生産面の影響が大きいため、兆候段階で手を打つべき現象です。

まとめ

NPSHは、キャビテーションを“理屈で潰す”ための実務指標です。NPSH不足は異音・振動だけでなく、性能低下、損傷、制御不安定、吸込不能まで幅広い問題を引き起こします。

一方で、NPSHaを構成要素に分解して見れば、どこを改善すべきかが数値で見えるため、対策の優先順位を付けやすいのが特徴です。

設置・配管・運用・機器選定のどれで解決するにせよ、最終的にはNPSHaとNPSHrの比較で判断し、NPSHaの余裕を確保することが重要です。

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