モリエル線図(p-h線図)とは、空調の冷媒サイクルを表す図です。
冷媒の状態をモリエル線図上でプロットできれば、その状態での冷房能力などを視覚的に知ることができます。
このページでは、モリエル線図の基本的な見方の紹介と、冷房運転するエアコンのサイクル例を紹介します。
モリエル線図とは
空調設備において冷媒は血液のように働きます。この冷媒は各工程で圧力や温度が変わるだけでなく、液体・気体の状態変化も起こります。
冷房運転では、「凝縮器での凝縮」、「膨張弁での降圧」と状態や圧力が次々と変わります。
一番高温なのはコンプレッサー出口で、一番低温なのは膨張弁出口(室内機入口)なんだね。
このような冷媒の状態変化をわかりやすく捉えることができるのがモリエル線図($p$-$h$線図)です。モリエル線図では縦軸に圧力$p$(の対数)、横軸にエンタルピー$h$をとっています。モリエル線図では冷媒の気液状態がわかるように飽和液線と飽和蒸気線が描かれています。
空調設備では冷媒の気液状態を変化させることで熱を効率的に移動させるため、飽和気液線は非常に重要です。
さらに、コンプレッサーの断熱圧縮で重要となる等エントロピー$s$線や比重$v$線、凝縮・膨張温度を知るための等温$T$線、気液混合領域での気液比$x$線も描かれています。
等$T$線、等$s$線、等$v$線、等$x$線を詳しく見る
等$T$線
装置において通常測定できるのは圧力$p$と温度$T$です。そのため、$p$-$h$線図において冷媒の状態(エンタルピーやエントロピーなど)を求める際に等$T$線を用います。
逆に、冷媒蒸発器や凝縮器での冷媒温度が指定された場合は、等$T$線に平行に線を引くことで冷媒圧力がわかります。
また、等温線は飽和液線や飽和蒸気線との交点で折れ曲がる特徴があります。
等$s$線
コンプレッサーでの圧縮は断熱(冷媒と外部との間に熱のやり取りなし)にて起こるため、エントロピー$s$が一定です。そのため、コンプレッサーでの圧縮時に冷媒がどのエンタルピーまで増加するかを調べるために使用するのが等$s$線です。空調設備の場合、飽和蒸気線の外側のラインを使うのが普通です。
等$v$線
コンプレッサーでは吸い込み量に直接影響するのは重量ではなく体積です。そのため、冷媒の質量流量$q_{m}(\text{kg/hr})$と体積流量$q_v(\text{m}^3/\text{kg})$を相互に換算する必要があるので、単位質量あたりの体積は重要な指標です。
等$x$線
等$x$線を使えば膨張弁出口での気液比(渇き度)を知ることができますが、運転中にこの気液比を調べて特定する必要性はあまりありません。
例えば、冷媒R32を利用している一般的なエアコン(冷房)の場合、モリエル線図上で冷媒のサイクル例は次のようになります。(冷房能力$2.3\text{kW}$、コンプレッサー動力$0.5\text{kW}$に相当)
簡易図はこちら
室内、室外気温や設定温度などでサイクルは逐次変わるので、上のサイクルはあくまでも一例です。
モリエル線図の見方
冷媒の気液状態がわかる
モリエル線図には飽和液線と飽和蒸気線が描かれているため、冷媒が気体状態なのか、液体状態なのか、あるいは液体と気体が混ざっている状態なのかを一目で知ることができます。
具体的には飽和液線より左側は液体、飽和蒸気線より右側は気体、飽和液線と飽和蒸気線に囲まれた領域は気液混合を表します。
膨張弁の入口は液体、コンプレッサーでは気体である必要があるので、冷媒の状態は非常に重要です。
冷媒のサイクルは台形で表せる
モリエル線図は縦軸が圧力、横軸がエンタルピーです。そのため、等圧での蒸発・凝縮は横線で、膨張弁での等エンタルピー減圧は縦線で簡単に描くことができます。つまり、モリエル線図上では冷媒のサイクルのほとんどを直線で描くことができます。
コンプレッサーでは断熱圧縮が起こるため、モリエル線図では等エントロピー線も描かれていることが普通です。
膨張弁ではジュール・トムソン膨張が起こるからエンタルピーが一定だよね
そのため、冷媒サイクルは$p$-$h$線図では台形のような形になります。(等エントロピー線は直線ではないので、正確には台形ではありません。)
冷凍能力がわかる
蒸発器の出入り口におけるエンタルピー差が$h_1-h_4(\text{kJ}/\text{kg})$、冷媒の流量を$Q(\text{kg}/\text{s})$とすると、冷房能力は$\Phi_0=Q(h_1-h_4)(\text{kW})$と計算できます。
例えば、冷媒の質量流量が$10(\text{g}/\text{s})=0.01(\text{kg}/\text{s})$で、蒸発器(室内機)でのエンタルピー変化が$h_1-h_4=230(\text{kJ}/\text{kg})$だった時、冷房能力は$0.01\times230=2.3\text{kW}$になります。
冷房能力2.3$\text{kW}$というと、$6\sim8$畳用くらいの大きさだね
さらに、比体積を$v(\text{m}^3/\text{kg})$とすると、圧縮機の吸い込み量$F(\text{m}^3/\text{s})$との関係は$Q=\frac{F}{v}$になります。これらの式を利用すると、$F=\frac{\Phi_0{v_1}}{h_1-h_4}$になることから、必要とされる冷凍能力$\Phi_0$があれば、必要となる圧縮機の吸い込み蒸気量$F$を求めることもできます。
圧縮所要動力がわかる
モリエル線図からコンプレッサーで必要となる圧縮動力を求めることもできます。
断熱圧縮の場合、その仕事量は冷媒のコンプレッサー出入口におけるエンタルピー差$h_2-h_1(\text{kJ}/\text{kg})$に等しくなるためです。
そのため、冷媒の質量流量が$Q(\text{kg}/\text{s})$の時、必要となる圧縮動力は$P=Q(h_2-h_1)(\text{kW})$となります。
例えば、冷媒の質量流量が$10(\text{g}/\text{s})=0.01(\text{kg}/\text{s})$で、コンプレッサー(室外機)でのエンタルピー変化が$h_2-h_1=50(\text{kJ}/\text{kg})$だった時、冷房能力は$0.01\times50=0.5\text{kW}$になります。
さらに、すでに求めている冷凍効果$\Phi$と圧縮動力$P$を利用することで成績係数$\text{COP}$も$\text{COP}=\frac{\Phi}{P}=\frac{h_1-h_4}{h_2-h_1}$とエンタルピー差だけから計算できます。
今までのサイクルの場合、成績係数は$\text{COP}=\frac{230}{50}=4.6$になります。(実際のエアコンでは、コンプレッサー以外にも動力が必要になるので、$\text{COP}$は低下します。)
エアコンのサイクルが台形だから$\text{COP}\gt1$になるんだね
モリエル線図では$\text{COP}\gt1$となることを視覚的に理解できます。
まとめ
このページではエアコンなどの空調に使われる冷媒のサイクルを表す際によく用いられるモリエル線図($p$-$h$線図)を紹介しました。
エアコンなどでは冷媒の蒸発・凝縮や減圧弁での等エンタルピー膨張が行われるため、$p$-$h$線図と相性が良いです。さらに、コンプレッサーでの断熱圧縮が行われるため、$p$-$h$線図には等エントロピー線も描かれています。
また、エアコンでは成績係数が$1$を超えますが、モリエル線図から冷媒の状態変化を上手く利用することで達成できていることを視覚的に理解していただければと思います。