モリエル線図(p-h線図)とは、エアコン(空調設備)の冷媒サイクルを表す図です。
冷媒の動きをモリエル線図上でプロットできれば、エアコンの冷房能力などを視覚的に知ることができます。
このページでは、モリエル線図の基本的な見方の紹介と、冷房運転するエアコンのサイクル例を紹介します。
エアコンの冷媒は蒸発したり凝縮したりする
エアコンでは冷媒が動くことで部屋を冷やしたり温めたりできます。重要なポイントは、冷媒は圧力や温度の変化に加えて、状態変化(液体⇔気体)も起こしていることです。


冷房運転では、「凝縮器での凝縮」、「膨張弁での降圧」と気液状態や圧力が次々と変わります。


一番高温なのはコンプレッサー出口で、一番低温なのは膨張弁出口(室内機入口)なんだね。
モリエル線図とは
エアコンにおける冷媒の動きをわかりやすく把握できるのがモリエル線図($p$-$h$線図)です。モリエル線図では縦軸に圧力$p$、横軸にエンタルピー$h$をとっています。
例えば、冷媒R32を利用している一般的なエアコン(冷房)の場合、冷媒のサイクル例は次のようになります。(冷房能力$2.3\text{kW}$、コンプレッサー動力$0.5\text{kW}$に相当)


室内、室外気温や設定温度などでサイクルは逐次変わるので、上のサイクルはあくまでも一例です。

「冷凍・空調の基本がわかる本」にはモリエル線図の見方が詳しく説明されています。
例えば、本ページでは圧縮過程における損失などは紹介しませんでしたが、本書では理想的な圧縮からのずれ(圧力損失、モーター効率など)をモリエル線図と機器内部図の両方を使用して詳しく解説されています。
モリエル線図だけでなく、各機器の内部構造と冷媒の状態イメージ、電子シーケンスの基礎、故障診断まで網羅しているイラスト多めの良書です。
モリエル線図の見方について

モリエル線図では線が多すぎてよくわかんないよ

この節ではモリエル線図に書かれている線の見方について解説します
飽和気液線
モリエル線図で最も重要な線は「飽和気液線」です。

エアコンは冷媒の状態変化(気体⇔液体)を利用するので、飽和気液線は最も重要です

モリエル線図において飽和気液線は上の図の赤い線です。
飽和液線より左側は液体、飽和液線と飽和蒸気線に囲まれた領域は気液混合、飽和蒸気線より右側は気体を表します。


膨張弁の入口は液体、コンプレッサーでは気体である必要があります
その他の線(等s線、等v線、等T線、等x線)
モリエル線図には飽和気液線の他、コンプレッサーの断熱圧縮で重要となる等エントロピー$s$線と比重$v$線であったり、凝縮・膨張温度を知るための等温$T$線、さらには気液混合領域での気液比$x$線も描かれています。
等$T$線、等$s$線、等$v$線、等$x$線を詳しく見る
等$T$線
装置において通常測定できるのは圧力$p$と温度$T$です。そのため、$p$-$h$線図において冷媒の状態(エンタルピーやエントロピーなど)を求める際に等$T$線を用います。

逆に、冷媒蒸発器や凝縮器での冷媒温度が指定された場合は、等$T$線に平行に線を引くことで冷媒圧力がわかります。

また、等温線は飽和気液液線の間は水平になる特徴があります。これは、状態変化しているとき、冷媒に熱を加えても温度は変わらないためです。
等$s$線
コンプレッサーでの圧縮は断熱(冷媒と外部との間に熱のやり取りなし)にて起こるため、エントロピー$s$が一定です。
そのため、コンプレッサーでの圧縮時に冷媒がどのエンタルピーまで増加するかを調べるために使用するのが等$s$線です。

エアコンの場合、飽和蒸気線の外側のラインを使うのが普通です。
等$v$線
コンプレッサーでは吸い込み量に直接影響するのは重量ではなく体積です。
そのため、冷媒の質量流量$q_{m}(\text{kg/hr})$と体積流量$q_v(\text{m}^3/\text{kg})$を相互に換算する必要があるので、単位質量あたりの体積は重要な指標です。

等$x$線
等$x$線を使えば膨張弁出口での気液比(渇き度)を知ることができますが、運転中にこの気液比を調べて特定する必要性はあまりありません。

モリエル線図の使い方について

モリエル線図はどうやって使えばよいの?

モリエル線図からエアコンで必要な電力量などが分かりますよ。この節ではモリエル線図の使い方ついて解説します

冷媒のサイクルは台形で表せる
モリエル線図は縦軸が圧力、横軸がエンタルピーです。そのため、等圧での蒸発・凝縮は横線で、膨張弁での等エンタルピー減圧は縦線になります。つまり、冷媒サイクルは$p$-$h$線図では台形のような形になります。


コンプレッサーでは断熱圧縮が起こるため、モリエル線図では等エントロピー線も描かれていることが普通です。

膨張弁ではジュール・トムソン膨張が起こるからエンタルピーが一定だよね

冷凍能力がわかる
蒸発器の出入り口におけるエンタルピー差が$h_1-h_4(\text{kJ}/\text{kg})$、冷媒の流量を$Q(\text{kg}/\text{s})$とすると、冷房能力は$\Phi_0=Q(h_1-h_4)(\text{kW})$と計算できます。

例えば、冷媒の質量流量が$10(\text{g}/\text{s})=0.01(\text{kg}/\text{s})$で、蒸発器(室内機)でのエンタルピー変化が$h_1-h_4=230(\text{kJ}/\text{kg})$だった時、冷房能力は$0.01\times230=2.3\text{kW}$になります。

冷房能力2.3$\text{kW}$というと、$6\sim8$畳用くらいの大きさだね
さらに、比体積を$v(\text{m}^3/\text{kg})$とすると、圧縮機の吸い込み量$F(\text{m}^3/\text{s})$との関係は$Q=\frac{F}{v}$になります。これらの式を利用すると、$F=\frac{\Phi_0{v_1}}{h_1-h_4}$になることから、必要とされる冷凍能力$\Phi_0$があれば、必要となる圧縮機の吸い込み蒸気量$F$を求めることもできます。
圧縮所要動力がわかる
モリエル線図からコンプレッサーで必要となる圧縮動力を求めることもできます。
断熱圧縮の場合、その仕事量は冷媒のコンプレッサー出入口におけるエンタルピー差$h_2-h_1(\text{kJ}/\text{kg})$に等しくなるためです。
そのため、冷媒の質量流量が$Q(\text{kg}/\text{s})$の時、必要となる圧縮動力は$P=Q(h_2-h_1)(\text{kW})$となります。

例えば、冷媒の質量流量が$10(\text{g}/\text{s})=0.01(\text{kg}/\text{s})$で、コンプレッサー(室外機)でのエンタルピー変化が$h_2-h_1=50(\text{kJ}/\text{kg})$だった時、冷房能力は$0.01\times50=0.5\text{kW}$になります。
さらに、すでに求めている冷凍効果$\Phi$と圧縮動力$P$を利用することで成績係数$\text{COP}$も$\text{COP}=\frac{\Phi}{P}=\frac{h_1-h_4}{h_2-h_1}$とエンタルピー差だけから計算できます。
今までのサイクルの場合、成績係数は$\text{COP}=\frac{230}{50}=4.6$になります。(実際のエアコンでは、コンプレッサー以外にも動力が必要になるので、$\text{COP}$は低下します。)

エアコンのサイクルが台形だから$\text{COP}\gt1$になるんだね

モリエル線図では$\text{COP}\gt1$となることを視覚的に理解できます。
まとめ
このページではエアコンなどの空調に使われる冷媒のサイクルを表す際によく用いられるモリエル線図($p$-$h$線図)を紹介しました。
エアコンなどでは冷媒の蒸発・凝縮や減圧弁での等エンタルピー膨張が行われるため、$p$-$h$線図と相性が良いです。さらに、コンプレッサーでの断熱圧縮が行われるため、$p$-$h$線図には等エントロピー線も描かれています。
また、エアコンでは成績係数が$1$を超えますが、モリエル線図から冷媒の状態変化を上手く利用することで達成できていることを視覚的に理解していただければと思います。