【理想と現実】オットーサイクルと実際のエンジンとの違いを紹介

オットーサイクルと実際のエンジンとの違いとは

身の回りで熱力学が重要な役割を果たしているひとつに車のガソリンエンジンがあります。

このガソリンエンジンのサイクルを模したものがオットーサイクルで、断熱工程と定積工程のみから構成されるため、非常にシンプルなモデルです。

このページでは理想的なオットーサイクルの具体的な計算結果を紹介したうえで、実際のガソリンエンジンではオットーサイクルの違い4つをご紹介します。

目次

オットーサイクルはガソリンエンジンを模している

自動車に使われるガソリンエンジンは吸気工程から始まり、圧縮・燃焼・膨張工程の後に、排気工程によって1サイクルが完結します。

オットーサイクルのイラスト

オットーサイクルはこのようなガソリンエンジンのサイクルを模したもので、内燃機関のモデルサイクルです。オットーサイクルの一番の特徴は、燃焼工程を定積昇温としている点です。

オットーサイクルの図

一方、ディーゼルサイクルでは燃焼工程を定圧として取り扱います。

しかし、この後で紹介しますが、実際のガソリンエンジンでは(主に定積昇温において)オットーサイクルからは全くかけ離れた圧力、体積挙動をとります。

「定積で加熱が行われる」というのは実際には厳しい仮定だよね

オットーサイクルの具体的計算例

理想的なオットーサイクルを具体的な数値に落とし込んで考えてみましょう。

排気量1500ccの4気筒エンジンに完全ガスを入れた場合のオットーサイクルを考えましょう。

詳しい前提条件はこちら
備考
シリンダー体積0.375L1500cc/4気筒
大気圧0.1013MPa大気圧
圧縮比9
空気比熱比1.4一定とする
空燃比14.7kg/kg
燃料燃焼熱34.6MJ/L
ガス定積比熱721J/kg・K一定とする

$P$-$V$線図と$T$-$S$線図は次のようになります。

理想的オットーサイクル
オットーサイクルの$P$-$V$、$T$-$S$線図(エントロピーの基準は断熱圧縮前とする)

完全ガスによるオットーサイクルでは、最高圧力は12MPa、温度は5000Kを超えますが、実際にはここまでの高温高圧にはなりません。下図のように実際のガソリンエンジンでは実際の最高圧力は5~9MPa、温度は2000~2500K程度に落ち着きます。(図は村山正著の「エンジン工学ー内燃機関の基礎と応用」を参考に作成)

理想的オットーサイクルと実際のエンジンサイクル
理想的オットーサイクルと実際のエンジンサイクルの違い

これは、燃焼による加熱が即時完結しないため(定積昇温でなくなる)や比熱の変化などのためです。

オットーサイクルと実際のエンジンの違い

オットーサイクルはガソリンエンジンのサイクルを模したものですが、完全ガスのオットーサイクルと実際のガソリンエンジンのサイクルは全く異なります。

相違点
  • 燃焼前後で作業流体の組成が異なる
  • 比熱が高温になるにつれて増加する(比熱比は減少)
  • 燃焼行程ではガス分子が乖離し、全体のモル数が増加する
  • 燃焼による温度上昇が即時には完了しない

燃焼前後で作業流体の組成が異なる

理想的なオットーサイクルではサイクルにおいて作業気体の組成は変化しませんが、実際のエンジンサイクルでは燃焼工程の前後で気体の組成が変化します。

オットーサイクルの気体組成
燃焼工程前後の気体組成例

吸気から燃焼前までは空気とガソリン(+前サイクルの残留物)の混合物ですが、燃料は燃えた後は二酸化炭素などに変わります。

作業気体の比熱や分子数がサイクル途中で変化するため、実際のエンジンサイクルは理想的なオットーサイクルからずれていきます。

比熱が高温になるにつれて増加する(比熱比は減少)

理想的なオットーサイクルでは比熱を一定値としますが、実在気体の比熱は高温になるにつれて大きくなります。

空気比熱
高温空気の比熱は増加します

空気の(定圧)比熱は常温では1000J/kg・K程度ですが、1500℃においては1300J/kg・K程度まで上昇します。

高温では作業ガスの比熱が大きくなるので、実際のエンジンにおける燃焼工程での温度上昇は、理想的なオットーサイクル(比熱が一定)よりも小さくなります。

燃焼行程ではガス分子が乖離し、全体のモル数が増加する

燃焼工程において、エンジン室内は2000~2500K程度まで上昇しますが、このような高温領域では二酸化炭素や水といった分子は熱乖離を起こします。

主な乖離反応
  • 2H$_2$O⇒2H$_2$+O$_2$
  • 2CO$_2$⇒2CO+O$_2$
  • 2H$_2$O+O$_2$⇒4OH
  • O$_2$⇒2O

これらの乖離反応は吸熱反応のため、シリンダー内の最高温度を下げる働きがあります。

例えば、CO$_2$⇒CO+\frac{1}{2}O$_2$は283kJ/molの吸熱です。

ただし、乖離によってモル数は増えるので、圧力に対しては上昇させる影響があります。

燃焼による温度上昇が即時には完了しない

理想的なオットーサイクルではガソリンの燃焼熱を定積で受け取りますが、実際のエンジンでは常にシリンダーが高速で動き続けているため、燃焼熱の受け取り工程を定積昇温とみなすことはできません。

実際のエンジンでは、燃焼時間中(10ミリ秒程度)にクランクが30℃程度回転します。(村山正著の「エンジン工学ー内燃機関の基礎と応用」より)

燃焼工程を定積とするのは難しいね

燃焼工程が定積とできないため、実際のエンジンサイクルの最大圧力は、完全ガスの理想的なオットーサイクルに比べてかなり低下します。

まとめ

このページでは理想的なオットーサイクルの具体的な計算結果を紹介したうえで、実際のガソリンエンジンではオットーサイクルと比べてどのような違いがあるかを4つのポイントをご紹介しました。

ガソリンエンジンのサイクルを模したものがオットーサイクルですが、定積昇温とはかけ離れている点、燃焼組成の変化を無視している点など、実際のエンジンをかなり単純化したモデルです。

しかし、圧縮率を上げるほど熱効率が高まる点や点火前の圧縮が断熱的に進む点など、実際のエンジンを模せている点も多いため、非常によいモデルです。

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