【具体例】枕タンクの耐震計算をしてみよう

揺れる貯槽

高圧ガスが入っている大きな塔や貯槽はもしもの地震の際でも設備が壊れたり、ガスが漏れたりしないような強度が求められます。つまり、いわゆる耐震計算が必要です。

計算式がややこしいので、耐震計算は難しいと感じがちですが、実務上は決められた手続きに則って進めることができるため、意外と簡単です。

このページではLPガスの枕タンクに対して具体的に耐震計算の進め方をご紹介します。

目次

耐震告示とは

さて、冒頭で書いた通り、高圧ガスが入っている大きな貯槽などは地震への耐久性が求められます。これはもし地震で高圧ガスの貯槽や蒸留塔が倒れでもしたら、周りへの影響が激甚のためです。

貯槽(貯蔵能力が3トン以上のもの)は、(中略)、地震の影響に対して安全な構造とすること。

高圧ガス保安法 一般則 第6条第17号より抜粋

東日本大震災でコスモ石油のLPガスの球形タンクが倒れて燃え続けたのは非常に有名です

コスモ石油の火災
東日本大震災でのコスモ石油火災(千葉県庁HPより)

高圧ガスの耐震性は現在、いわゆる耐震告示で定められており、そこには「耐震性能の評価は適切な方法により行い、地震動に対して損傷または機能喪失が無いこと」などと書かれているのみです。つまり、耐震告示は地震に対する性能を求めているだけです(性能規定)。

(前略)地震動に対して、当該耐震設計構造物の損傷または機能喪失が無いこと。

耐震告示 第2条第1号より抜粋

したがって、耐震告示だけでは、実際にどのような計算すべきかは分かりません。そのため、経済産業省は通達(高圧ガス設備等の耐震性能を定める告示の機能性基準の運用について)で「耐震の具体的な計算方法は高圧ガス保安協会の規格KHKS0861ですよ。」と教えてくれています。そのため、具体的な計算はKHKS0861に基づいて計算をするという運用になっています。

さて、耐震告示には著作権がないのですが、高圧ガス保安協会のKHK0861は著作権で保護されているので、勝手にホームページでは利用はできません。しかし、実はH30年以前の耐震告示には耐震計算を行うための細かな計算式が決められていました。そこで、このページでは、昔の耐震告示を利用して枕タンクの耐震計算を行っていきます。

高圧ガス保安法規集
昔の高圧ガス保安法規集には耐震計算方法が載っています

このページで登場する第●●条というのは、旧耐震告示での条項です。

計算を行う枕タンクの概要・サイズ

貯槽

耐震計算を行う枕タンクの概要を決めましょう。今回は対象として、千葉県に設置しているLPガスの20ton貯槽を計算することにします。

変数単位
$P_0$常用圧力(MPa)1.80
$T_0$常用温度(℃)40
$W$貯蔵能力(ton)20
$X$事業所境界線までの距離(m)30
$Y$貯槽設置場所千葉県の埋め立て地
$Z$内容物LPガス

常用温度は材料の引っ張り強さなどが温度依存するために必要な前提条件になります

さらに、耐震計算を行うためにはタンク自体の長さをひととおり知っておく必要があります。実務上はタンクの製造メーカーから図面がもらえるので、問題なく手に入る情報です。

今回は耐震計算の模擬ということで、下のような適当な値を使います。

タンクの図面
変数意味(単位)
材質SPV450
$W_1$液重量(N)200,000
$W_2$貯槽重量(N)100,000
$L$正接線間距離(mm)10,000
$L_s$中心間距離(mm)7500
$H$鏡板の深さ(mm)700
$H_V$(mm)1,300
$D_m$胴の直径(mm)2,600
$R_m$胴の内径(mm)1300
$A$サドル中心から正接線までの長さ(mm)650
$B$2,200
$b$サドル幅(mm)330
$\theta$支持角(°)120
$t$板厚(mm)13

ステップ1:設計地震動を決める

ステップ1は自信による地面の揺れ(加速度)を設定する必要があります。旧耐震告示では第3条でこの揺れの設定方法が示されています。今回は千葉県の埋め立て地ということで、耐震計算上は最も揺れが激しいと想定される場所になります。

第3条(設計地震動)

$K_H=0.150\mu_k\beta_1\beta_2\beta_3$と$K_V=0.075\mu_k\beta_1\beta_2\beta_3$に従って、水平震度$K_H$と鉛直震度$K_V$を計算しましょう。

$\mu_k$はレベル1地震動では$1.0$、レベル2地震動では$2.0$以上とされ、今はレベル1地震動の解析を行うので、$\mu_k=1.0$とします。

$\beta_1$は内容物の種類と敷地境界からの距離できまる重要度係数ですが、今はLPガスで敷地境界から$30\text{m}$の距離なので、$\beta_1=0.80$(重要度Ⅰ)です。
$\beta_2$は設備の住所で決まる地域係数です。今は千葉県の設備なので、$\beta_2=1.0$です。
$\beta_3$は地盤の古さできまる表層地盤増幅係数です。今は千葉の埋め立て地(第三紀以降の地盤)なので、$\beta_3=2.0$です。

つまり、いまのケースの場合、$K_H=0.15*1.0*0.8*1.0*2.0=0.168$、$K_V=0.075*1.0*0.8*1.0*2.0=0.084$になります。

第4条

需要度がⅡまたはⅢの100ton未満の横置円筒形貯槽(枕タンク)は耐震設計を静的震度法できるとされますが、今回は重要度がⅠの枕タンクなので、第6条の修正震度法が必須です。

ステップ2:応答解析を行う

第6条第1号

設計修正水平震度と設計修正鉛直震度は次の計算式で計算できます。$K_\text{MH}=\beta_5K_\text{H}$、$K_\text{MH}=\beta_6K_\text{V}$。

このうち、貯蔵量100ton未満の枕タンクは第6条第2号よって固有周期$T$を算定する必要はなく、$\beta_5=2.0$、$\beta_6=2.0$にできます。

つまり、$K_\text{MH}=2.0*0.168=0.336$、$K_\text{MV}=2.0*0.084=0.168$になります。

第6条第3号

設計修正地震力$F_\text{MH}=K\text{MH}W$と$F_\text{MV}=K_\text{MH}W$を求めます。

先ほどの結果から$K_\text{MH}=0.336$、$K_\text{MV}=0.168$であって、今、貯槽と内容物の合計重量は$W=300000\text{N}$なので、設計修正地震力は$F_\text{MH}=0.336*300000=100800$と$F_\text{MV}=0.168*300000=50400$になります。

ステップ3:算定応力

第12条(引張応力計算)

第12条では、枕タンクのサドル部、胴中央部、鏡部など各部分に働く応力の計算方法が示されています。今回は$\sigma=\frac{P_\text{o}D_\text{m}}{4t}+\frac{M_\text{LC}}{Z_\text{C}}$で与えられる胴中央部に働く引張応力を計算してみましょう。

下には細かな計算式が並びますが、耐震告示に乗っているものなので、特に考えなくても計算できます

$M_\text{LC}$は胴サドル部に作用する曲げモーメントですが、もちろん計算方法は告示で示されており、$M_\text{LC}=(\frac{W_\text{V}+F_{MV}}{2}+F_{eV})$$\{\frac{3L^2+6(R_m^2-H^2)}{4(3L+4H)}-A\}$で計算すればオッケーです。

この式において$F_\text{eV}$は$F_\text{VX}=\frac{F_\text{MH}H_\text{MV}}{L_\text{s}}$と$F_\text{VY}=\frac{3F_\text{MH}H_\text{MV}}{4B}$のうちのいずれか大きいものであるので、今回の場合、$F_\text{eV}=F_\text{VY}=\frac{3\cdot100800\cdot1300}{4\cdot2200}=44673(\text{N})$になります。なお、$W_\text{V}$は運転重量で液重量と貯槽重量を足したものです$W_\text{V}=200000+100000=300000(\text{N})$。

胴中央部の引張応力を算定するためには、サドルから受ける反力$Q$を計算する必要があります。これは$Q=\frac{W_\text{V}+F_\text{MV}}{2}+F_{\text{eV}}=\frac{300000+50400}{2}+44673=219873(\text{N})$となります。このサドルからの反力$Q$を使うと、胴中央部の曲げモーメントは$M_\text{LC}=Q(\frac{3L^2+6(R_m^2-H^2)}{4(3L+4H)}-A)=219873(\frac{3\cdot10000^2+6(1300^2-700^2)}{4(3\cdot10000+4\cdot700)}-650)=371907136(\text{N}\cdot\text{mm})$で計算できます。

そして、胴に働く引張応力($\text{N}/\text{mm}$)を計算するためには曲げモーメント($\text{N}\cdot\text{mm}$)を断面積($\text{mm}^2$)で割る必要があります。そのための胴の断面係数$Z_\text{C}$は$\pi{R_m^2}t=3.1415926*1300^2*13=69020790(\text{mm}^2)$です。

最終的に、地震の際に胴に働く引張応力は$\sigma_t=\frac{P_0D_m}{4t}+\frac{M_\text{ML}}{Z_\text{C}}=\frac{1.8*2600}{4*13}+\frac{371907136}{6902079}=96(\text{N}/\text{mm})$で計算されます。

第12条(許容引張応力との比較)

引張応力が$\sigma=96(\text{N}/\text{mm})$と計算されたので、この数値が材料の限界値$f_t$を下回ることを確認すればオッケーです。

変数意味
$f_t$SPV450の40℃における許容引張応力(N/mm)342

いま、常用温度40℃におけるSPV450の許容引張応力は$f_t=342\text{N/mm}^2$です。

許容引張応力の値も耐震告示で示されています。

地震時の算定引張応力$96$よりも大きいことから、胴中央部の引張強度は地震に対して問題ないということが分かります。

まとめ

このページではLPガスの枕タンクに対して具体的に耐震計算の進め方を具体的に解説しました。

耐震計算は計算式がややこしいので、難しいと感じがちですが、実務上は決められた手続きに則って進めることができるため、意外と簡単です。

皆さんも、耐震計算が必要になった場合は、物おじせずにトライしてみてください。

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