高圧ガスの耐震設計は昭和56年に制定された後、阪神淡路大震災や東日本大震災などの巨大地震が起こるたびに計算方法が見直されているため、今なお進化を続けています。
計算自体は(ややこしいですが、)法令に則って淡々と進めていけることも多いので、本記事では高圧ガスの耐震計算について全体像を俯瞰するように解説します。
高圧ガス設備の耐震設計とは?まず押さえたい基準と全体像
高圧ガス保安法における耐震設計の位置づけ
高圧ガス保安法では、大きな塔槽類(3ton以上の貯槽など)は地震に対する安全性の確保が求められています。もちろん、高圧ガスの製造や貯蔵などに伴う災害を防止するためです。
耐震設計というと、地震学や地質学、はてまた材料工学、さらには法令に至るまで極めて幅広い知識が必要と考えがちですが、実務上は法令に則って計算を進めていけばよいので実は難しくはありません。
耐震計算の大まかな流れ
耐震計算の全体像を理解していないと、何を計算しているか全くわからなくなるので、どのようなことを行っているか概略を把握しておきましょう。
耐震性能評価のおおまかな流れは次の通りです。
まずファーストステップです。設備が耐えなければならない地震の大きさ(設計地震動)を決めます。ステップ1ではガスの種類(アンモニア?LP?など)や設置場所(何県?設備は工場の端っこ?など)などだけによって決まるので、悩むことはありません。

次のステップでは地震によってどの程度設備が揺さぶられる(地震応答)かを計算する必要があります。ここからは設備の高さや重量を元に計算を進めていく必要があります。ステップ2には地震による変形モードをどの程度まで考慮するかについて、計算モデルの選択肢があります(静的震度法、修正震度法、モード解析法など)

最後のステップは地震によって設備にどの程度応力(引張、曲げなど)が発生してしまうかを計算します。その応力が材質の性能(引張強さなど)よりも大きいのか、あるいは小さいのかを確認することで設備の耐震性を確認します。


ステップ2~3でもオーソドックスな設備(枕タンクなど)では、告示に基づけばほぼ流れ作業で進めます
ステップ1:設計地震動を決める
地震に対する設備の強さを考えるためには、地震によって設備が水平や垂直方向にどれぐらいゆさぶられるか(つまり加速度の大きさ)を考える必要があります。

この加速度(細かく言うと、レベル1地震動の、地表での水平方向の設計震度)は$K_H=0.15\beta_1\beta_2\beta_3$という風に与えられます(高圧ガス保安法の耐震告示による)。$\beta_1$、$\beta_2$、$\beta_3$はそれぞれ重要度係数、地域係数、表層地盤増幅係数と呼ばれるもので、設備の耐震性を考えるうえでの前提条件となりますので、まずはここを解説します。
なお、設計震度$K$とは、加速度の大きさを重力加速度$g=9.8\text{m/s}^2$との比で表したものです。

たとえば設計震度0.5だと、重力の半分の加速度で揺さぶられるということになるね
重要度係数β1とは
耐震設計では地震が起こった際のリスクによって、耐震性に強弱をつけるため、高圧ガスの種類(毒性か否か)、停滞量、敷地境界までの距離に応じて、設備それぞれに重要度分類が割り当てられます。
例えば、敷地境界から20mの10tonのアンモニア貯槽は重要度「Ⅰ」、敷地境界から100mの貯蔵量3tonの窒素CEは重要度「Ⅲ」、などといった具合です。

重要度が上がるにつれて、重要度係数$\beta_1$も上がるようになっています。
| 事務所外との距離 | 0~40m | 40~200m | 200m~ |
|---|---|---|---|
| 重要度 | Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ |
| β1 | 0.80 | 0.65 | 0.50 |
地域係数β2とは
設計地震動(設備に対して働く、地震の際に想定される、水平や垂直方向の加速度)に対して影響を与える2つめの因子に「地域係数β2」というものがあります。

これは、過去の地震歴や観測結果から、地震発生の頻度・大きさ・被害の程度を鑑みて「特A」、「A」、「B」、「C」の4つの地域に日本を区分するものです。例えば、千葉県は「特A地区」、山口県は「C地区」というふうに分類されます。
| 地域区分 | 特A | A | B | C |
|---|---|---|---|---|
| β2 | 1.0 | 0.8 | 0.6 | 0.4 |
残念な話ですが、同じ設備であっても、それが特A地域(例えば千葉県)なのか、C地域(例えば沖縄県)なのかによって求められる耐震性能は変わってしまいます。
表層地盤増幅係数β3とは
設備の揺れはその設備が立地する地盤のよし悪しに大きく左右されます。埋立地の上に建てた蒸留塔だと大きく揺れますが、台地上の貯槽だと揺れは軽減されます。
設備の地盤のよし悪しを設計地震動に反映させるのが「表層地盤増幅係数β3」です。第三紀以前(258万年以前)の地盤だとβ3=1.4でそれ以外の地盤だとβ3=2.0が割り当てられます。

例えば、千葉県は全域が特A地域ですが、そのなかでも第三紀以前の地盤(南部の台地など)なのか、それ以外(北部の埋め立て地など)によって求められる耐震性能は変わります。
ステップ2:応答解析を行う
$K_H=0.15\beta_1\beta_2\beta_3$によって、設備における地面の揺れ度合いが分かりました。ここまで選択の余地はありません。ステップ2では、地震の揺れによって設備がどう応答するかを考えます。
つまりステップ2では、設備の高さ、重量などといった数値が必要になってきますが、耐震計算では設備の細かな部分(たとえば貯槽のノズルやマンホールなど)は考慮しません。例えば貯槽であれば、「地面から高さ2mの位置に重さ15tonの質点がゴムひもでつながれている」というようなモデルまで簡略化します。


人を棒人間として描くかんじだね
設備の高さや重さはスペックによって決まってしまいますが、「ゴムひも」をどの程度まで現実に近いモデルで見積もるかにはまだ選択の余地があります。「ゴムひも」のモデルは主に3つあります。
静的震度法
静的震度法は最も簡単な計算モデルです。地震力を(構造物の重量)×(設計震度)として計算します。設備のゆれがばねとしてみなせられる(つまり線形性が高い)小規模な剛体としてみなせる設備に適用されます。

「静的」とは、地震が作用すると瞬時に設備に応力が発生するという意味です。ゆれに対する「遅れ」を考慮しないために計算は簡単です。しかし、地震と設備の共振した場合の設備にはたらく大きなひずみを考慮できないという問題があります。
修正震度法
修正震度法は耐震設計でもっとも多く利用される計算モデルです。修正震度法は静的震度法とはことなり、設備の固有周期を計算に入れているため、共振による大きなひずみなども考慮して設計できます。

モード解析法
モード解析法は修正震度法では考慮されない、設備の高次の変形モードまで考慮して設計する計算手法です。


背の高いスカート支持の蒸留塔などで利用されるかと思いますが、私は計算を見たことがありません。
ステップ3:
よくある設備(枕タンクなど)では、計算モードを選んだ以降は告示に則って計算を進めていくと耐震性能のOK、NGが流れ作業ででます。

法令で示されている計算式(例えば曲げモーメントなど)の根拠はぶっちゃけ私もわかりません(笑)。しかし、法令で示されている式に則れば遵法上OKということなので、計算の根拠が分からなくても実務上は問題ありません。
ただし、告示でも示されている通り、地震時に発生する最大応力$\sigma_d$が材料の降伏応力$\sigma_y$以下であること(つまり$\sigma_d\le\sigma_y$であること)などを確認しています。
まとめ
本記事では高圧ガスの耐震計算について全体像を俯瞰するように解説しました。
耐震設計というと、地震学や地質学、はてまた材料工学、さらには法令に至るまで極めて幅広い知識が必要と考えがちですが、実務上は法令に則って計算を進めていけばよいので実は難しくはありません。
しかし、計算の全体像を理解していないと、何を計算しているか全くわからなくなるので、本記事のステップ1~3でなにを行っているかくらいは覚えておきましょう。

