超臨界状態とは、液体と気体両方の特徴を持つ状態です。超臨界状態では、液体に近い密度を持って成分を溶かし込む力を得ながら、気体に近い高拡散性によって原料の内部まで入り込みやすい点が特徴です。
なかでも二酸化炭素はマイルドな環境で超臨界状態になるため、食品や医薬品の領域で活用が進んでおり、実際にコーヒー生豆からのカフェイン抽出や、果物からの香料や油脂分離に活かされています。
このページでは、超臨界状態の特徴だけでなく、超臨界抽出のプロセスを具体的かつ分かりやすく解説します。
超臨界ってなに?

簡単に「超臨界状態」を解説します。
物質の状態は、固体/液体/気体が知られてますが、圧力と温度を上げ続けると、ある時点で液体と気体両方の特徴を持つ状態になります。これが「超臨界流体」です。
| 二酸化炭素 | 気体 | 超臨界状態 | 液体 |
|---|---|---|---|
| 密度(kg/m3) | 0.6~2.0 | 300~900 | 700~1600 |
| 拡散係数 (10-9m2/sec) | 1000~4000 | 20~700 | 0.2~2.0 |
| 粘度(10-5Pa・sec) | 1~3 | 1~9 | 200~300 |
超臨界というと、縁遠いと感じるかもしれませんが、実はありふれた存在です。例えば、水素の超臨界点は-260℃、1.3MPaなので、ガスクロで使われている水素ボンベ(常温、14.7MPa)の中は余裕で超臨界状態になっています。

なんなら、空気ボンベの中身(酸素、窒素)も超臨界状態です。


超臨界状態は実は身近な存在なんだね
超臨界状態には、液体のような高い溶解性や、気体のような大きな拡散性など、メリットがたくさんあります。そのなかで、超臨界状態の一番の長所は、溶解度合いの調節ができるということです。

圧力や温度、補助溶媒を変えると狙ったものだけを溶かせられるので超臨界状態を利用した抽出が行われています。
デカフェといえば超臨界抽出の理由
超臨界状態はすべての物質で存在しますが、超臨界抽出でもっとも活用されているのが二酸化炭素の超臨界状態です。なぜなら、二酸化炭素は比較的マイルドな条件(31.1℃、7,4MPa)で超臨界状態となり、さらに可燃性・毒性を持たないので産業界へ展開するハードルが低いためです。

例えば、水を超臨界にするには374℃、22.1MPaもの温度・圧力が必要です。

カフェインをデカフェするだけなら、有機溶媒が一番簡単です。しかし、少しでも製品に溶媒が残ると、大きなクレームとなります。さらに、コーヒーの風味なども一緒に取り除かれてしまう恐れもあります。無味・無臭・選択性というメリットがあるため、二酸化炭素の超臨界抽出は食品・薬品関連分野への応用が進みました。(東北大学 阿尻研究室HPより)
超臨界抽出で必要となる主要機器

今回は唐辛子から香り成分(精油)を抽出する
プロセスを考えましょう!
二酸化炭素で超臨界抽出を行うためには、主に2つの機器が必要です。それは、「抽出器」と「分離器」です。


完全に推測ですが、おそらく写真の左と真ん中の容器が抽出器、右の容器が分離器です
抽出器(超臨界抽出のメイン機器)
抽出器は原料(今回は唐辛子)を超臨界状態の二酸化炭素によって成分を抽出する場所で、超臨界抽出のメインとなる容器です。

抽出器には対象物(今は唐辛子)と二酸化炭素(超臨界状態)が混ざりあっていて、抽出が進んでいる場所です。抽出器の出入口にフィルターをかませば、対象物が抽出器の外へ出ていくことはありません。

抽出効率を上げるため、唐辛子を粉砕してパウダー化させたものを投入することが多いです
抽出器では温度は比較的低温(30℃~60℃程度)ですが、圧力は20~30MPaと超高圧なため、分厚いステンレスが使われています。

30気圧というと、300気圧(大気圧の300倍)ということだね。


抽出器の上部は開閉できて、原料はそこから手投入ができます。
分離器(抽出物を回収する場所)
一方、分離器は液体状態の二酸化炭素に溶け込んだ抽出物を二酸化炭素と抽出物に分けるための容器です。
実際には、分離器の手前には圧力を6MPa程度まで下げる減圧弁があるため、二酸化炭素と抽出物の分離は分離器の手前から始まっているので、抽出物(精油)である液体をためておくという役割を分離器は担っています。


基本的に、分離器からは液体の状態でサンプリングします
相図で見てみると

超臨界抽出を相図で考えてみましょう。
まず、液体状態の二酸化炭素から超臨界抽出の旅を始めましょう。相図でいうと、左下の点になります。二酸化炭素はまだ受液器(タンク)にいて、一番エネルギーは低い状態(およそ15℃、6MPa程度)です。

次に、二酸化炭素はポンプで液体状態のまま7MPaから30MPaまで昇圧されます。相図では左下から左上に移ります。ポンプで昇圧されるだけなので、状態は液体のままで変わりません。
そのあと、熱交換器(電熱、スチームなど)を通って、温度を15℃から40℃程度まで昇温され、いよいよ二酸化炭素が超臨界状態へ移ります。抽出器は相図では一番エネルギーの高い右上の状態です(およそ40℃、30MPa程度。

プラントのサイズ次第ですが、二酸化炭素が数ton/hrの流量であっても、ポンプは通常のプランジャーポンプ(往復式ポンプ)が使えますし、熱交換器も二重管式が使えます。
最後に、分離器手前の減圧弁で二酸化炭素の圧力を30MPaから6MPaまで一気に落とし、二酸化炭素を気化させます。相図では右下の位置です。こうすることで、二酸化炭素と抽出物(いまは精油)が分離され、抽出物が分離器にたまっていく、というわけです。
気体になった二酸化炭素は大気放出して捨てても良いですが、もったいないので、クーラーで40℃から15℃程度まで冷却して液化させ、元の受液器(タンク)へ戻します。これで相図の①に戻ります。
なぜ先に昇圧してから昇温するのか
超臨界状態にするには、40℃程度まで温度を上げ、圧力も30MPa程度まで上げる必要があります。
(相図でいうと、左下から右上まで移す必要があります。)
方法としては、温度⇒圧力の順番で超臨界へ持っていく方法もありますが、プラントでは、圧力⇒温度の順番で超臨界へ持っていくほうが簡単です。なぜなら、液体を昇圧するポンプの方が気体を昇圧するコンプレッサーより扱いやすい機器だからです。
先に温度を上げてしまうと、気体状態の二酸化炭素をコンプレッサーを使って昇圧しないといけなくなります。コンプレッサーは気体を扱うため、気密性の難易度UP、装置が大型化しやすい、うるさいなどのデメリットが多いです。
まとめ
このページでは、超臨界状態の特徴だけでなく、超臨界抽出のプロセスについて、分かりやすく解説しました。
二酸化炭素はマイルドな環境で超臨界状態になるため、食品や医薬品の領域で活用が進んでおり、コーヒー生豆からのカフェイン抽出や、果物からの香料や油脂分離に活かされています。
皆さんも、デカフェコーヒーや精油を見た際は、もしかしたら二酸化炭素超臨界抽出によって抽出・分離されたものかもしれないと思って、味を楽しんでください。





