このページでは、タービンを水蒸気で回す際の熱サイクルであるランキンサイクルを紹介します。
ランキンサイクルは火力発電所や原子力発電所で電力を作るための基本となる熱サイクルなので、我々の日常生活に欠かすことはできません。
また、再熱サイクル(水蒸気を再び熱するサイクル)と再生サイクル(水蒸気を再び活かすサイクル)の効率がランキンサイクルよりも向上することも$T$-$S$線図から視覚的にご紹介します。
ランキンサイクル
ランキンサイクルのポイント
はじめに、ランキンサイクルを簡単に確認しましょう。ランキンサイクルは水蒸気でタービンを回して発電を行う際の基本となるサイクルです。
「蒸気を作ってタービンを回す」が基本的な考えだね
ランキンサイクルの重要なポイントは次の3つです。
- ランキンサイクルの作業流体は水と水蒸気
- ボイラで作った高圧の水蒸気でタービンを回して発電する
- 復水器で蒸気を凝縮させて高真空を作り、タービンからの排気を促す
「水」といっても、内部が汚れないようにCa$^{2+}$イオンや溶存O$_2$ガスの濃度は厳格に規定されます。
水道水だと蒸発させたらすぐにCaの白い粉がでてくるもんね
ランキンサイクルを取り扱いやすくするため、簡素化させた各工程に1~5までの数字を割り当てておきます。
給水ポンプ($3\to3^\prime$)による影響は小さいので、このページでは無視します。
ランキンサイクルのT-S線図
このランキンサイクルの効率を考えるために、サイクルを$T$-$S$線図で表現してみましょう。
熱サイクルの効率を考える場合は$T$-$S$線図を使うことがおおいよね
サイクルの$T$-$S$線図が長方形に近づくほど効率は上がるからね
蒸気タービン入口での圧力を$15\text{MPa}$、温度$550\unicode{x2103}$とし、復水器出口の圧力を$10{\text{kPa}}$(温度$45\unicode{x2103}$)まで低下させたランキンサイクルの$T$-$S$線図は↓図のようになります。
水は気液状態が変わるので、$T$-$S$線図に飽和気液線(青線の山)が描かれています
山の左側は水、山の右側は水蒸気、その間は気液混合だよね
各工程のポイントは次の通りです
- タービン(1⇒2)で水蒸気は断熱膨張するため、エントロピーは一定で温度が低下する
- 復水器(2⇒3)では水蒸気が水に凝縮するため、温度は一定で変化する
- ボイラ(3⇒4⇒5⇒1)で水から過熱水蒸気に変化する
サイクルの$T$-$S$線図が長方形に近づくほど、熱サイクルの効率はカルノーサイクルに近づきます。しかし、温度$45~550\unicode{x2103}$での理想的なカルノーサイクルは(3⇒4$^\prime$⇒1⇒2)ですが、ランキンサイクルでは、ボイラでの工程(3⇒4⇒5⇒1)によって、長方形から遠ざかってしまっています。
$T$-$S$線図の左上領域の部分(□$34^\prime{154}$)があるから効率が下がるんだね
積分$\int{T}\text{d}S$でサイクルに出入りする熱量を知ることができます。$T$-$S$線図を利用してランキンサイクルの効率を求めましょう。
例えば、復水器出口($3$)から蒸気タービン入口($1$)までの入熱量は$\int^{3\to4}_{\to1}T\text{d}S=h_1-h_3$で計算できます。逆に、復水器での排熱量は$\int^{3\to2}T\text{d}S=h_2-h_3$です。
ランキンサイクルではこれら以外での熱の出入りはないので、熱効率は$\eta=1-\frac{Q_{\text{out}}}{Q_{\text{in}}}=\frac{h_1-h_2}{h_1-h_3}$で計算できます。
つまり、このランキンサイクルの効率は$\eta=\frac{3500-2100}{3500-200}=42\%$だね
いまの段階でもオットーサイクルより高効率ですが、さらに効率を上げることが可能です
カルノーサイクルはなぜ無理か
発電所での基本サイクルとなるランキンサイクルですが、熱サイクルの理想形であるカルノーサイクルはなぜ採用できないのでしょうか。定圧、断熱工程のみから構成されるサイクル(1⇒2⇒3⇒4⇒1)を考えてみましょう。
このサイクルが現実の発電所で採用できない1つ目の工程は$1\to2$の断熱膨張工程です。ここではタービンを置き、蒸気によって発電を行う必要がありますが、飽和蒸気を使用した場合、すぐに水滴がタービン上で発生します。そのため、蒸気と水滴の速度差による摩擦などによる大きな損失(湿り損失)がすぐ発生し、実際の発電には使えません。
発電所でもタービン出口付近では膨張の結果、水滴が発生します。水滴による湿り損失はタービン損失の数割を占めます。
さらに、実現が困難な工程は復水器における$2\to3$の工程です。カルノーサイクルにするにはボイラー入口の$4$で飽和液線上に状態を持っていく必要がありますが、復水器で狙った湿り度の$3$までピンポイントで冷却することは不可能です。
これらの観点だけでも、発電所でカルノーサイクルを実現させることは実質的に不可能です。そのため、発電所の基本的なサイクルはランキンサイクルになっています。
再熱サイクル
厳密なカルノーサイクルを行うことは不可能ですが、ランキンサイクルをカルノーサイクルに近づけていくことは十分可能です。その方法として再熱サイクルと再生サイクルがあります。
ランキンサイクルをカルノーサイクルに近づける1つ目の方法が再熱サイクルです。
再熱サイクルとは
再熱サイクルは蒸気タービンでの膨張途中で蒸気をタービンから取り出して、再度ボイラーで加熱した後、タービンに戻すサイクルです。
タービン途中(6)で蒸気を再度ボイラに戻すんだね
これによって、$T$-$S$線図の出っ張り部分が2つに増え、全体の形が長方形に近づきます。そのため、効率が上がります。
角の数は増えているけど、大局的にみるとランキンサイクルよりは長方形に近いということだね
再熱サイクルの効率
再熱サイクルの入熱量は$\int^{3\to1}_{\to6\to1}{T}\text{d}S=(h_1-h_3)-(h_7-h_6)$で、排熱量は$\int^{2\to3}\text{d}S=h_2-h_3$なので、効率は$\eta=1-\frac{Q_{\text{in}}}{Q_{\text{out}}}=1-\frac{h_2-h_3}{(h_1-h_3)-(h_7-h_6)}$と計算できます。
さっきのサイクルの効率は$\eta=$$1-\frac{2400-200}{3620-200+3500-2950}=45\%$と計算できるね
このように、再熱サイクルではランキンサイクルよりも熱力学的な効率を上げることができます。さらに、タービンでの水滴の発生をランキンサイクルよりも遅らすことができるので、湿り損失の低減やタービンの腐食や摩耗を低減させる効果もかなり大きいです。
再生サイクル
ランキンサイクルをカルノーサイクルに近づけるもう一つのアプローチが再生サイクルです。
再生サイクルとは
再生サイクルではタービンでの膨張途中の蒸気を取り出し、その蒸気を復水器出口水の加熱に使用します。これは復水器で捨てられる熱量を少なくするためです。また、加熱に使用された蒸気も復水器出口水と合わさってボイラーに入るので、水のロスはありません。
タービン途中(6)で蒸気の一部を抜き取るんだね
タービンに仕事をさせて役目を終えた蒸気(の一部)をボイラー水の加熱で再び役立てる(つまり、再生させる)ので、再生サイクルと呼ばれています。
再熱サイクルと再生サイクルは似た言葉で混同しやすいよね
「水蒸気を再び熱するのが再熱サイクル」、「水蒸気(の一部)を別の道で再び生きかえらせるのが再生サイクル」と覚えましょう。
実際の発電所では蒸気は$7\sim10$回程度、大型タンカー線でも$5$回程度に分けて抽気されますが、簡単のために$1$回抽気の場合を考えましょう。1回抽気の再生サイクルの$T$-$S$線図は↓のようになります。タービン途中で注記するため、$1\to2$の途中で分岐点$6$が発生します。
抽気割合$m$とすると、割合$m$の水は1⇒6⇒7⇒4⇒1でサイクルして、割合$1-m$の水は1⇒2⇒3⇒4⇒1でサイクルすることになります。
蒸気の一部を抜き取ったら仕事量は減るけどいいの?
確かに仕事量は減りますが、排熱量が減ることのメリットの方が大きいのが再生サイクルです
タービン途中で蒸気の一部を抜き取るため、仕事量が減ることは避けることができませんが、再生サイクルでは復水器での熱損失を改善できるため、全体としての効率が上がります。
また、タービン低圧部における体積流量を下げることができるので、巨大配管を減らせるなど設計上のメリットも大きいです。
再生サイクルの効率
抽気された蒸気によって、タービン入口の蒸気が$230\unicode{x2103}$($15\text{MPa}$での沸点)まで加熱されたとしましょう。この場合、エンタルピー収支から抽気量は$m=0.285$と、一意に決まります。この再生サイクルの$T$-$S$線図は次の通りです。
このサイクルでは、仕事量と排熱量が1⇒2⇒3⇒6⇒1のランキンサイクルに比べて、$1-m=71.5\%$まで減っているため、実質的にはサイクル1⇒2⇒a⇒b⇒7⇒4⇒1のような$T$-$S$線図に書き換えることができます。つまり、ランキンサイクルの$T$-$S$線図における左下すそ部分を改善できるので、サイクル効率を上げることができます。
仮想点$a$と$b$は仕事量と排熱量が抽気量$m$分だけ減るようにとる必要があります
効率は$\eta=1-(1-m)*\frac{2100-200}{3500-1000}=46\%$と、ランキンサイクル($42\%$)よりも効率を引き上げることができます。
黄色の塗りつぶしはかなり長方形に近づいているように見えるね
注意ですが、点$a$や$b$は仮想的な点なので、実際のサイクルで何かアクションが起こるわけではありません
再生サイクルも再熱サイクルと同様に、熱力学的な効率を上げることができます。再生サイクルは熱力学的効率の向上のほかにも、ボイラ入口水の温度を上げることができるため、ボイラの劣化を抑えることができたり、タービン低圧部の水滴発生量を減らせるため、タービンの腐食・劣化を抑えることもできます。
まとめ
このページでは、タービンを水蒸気で回す際の熱サイクルであるランキンサイクルを紹介しました。ランキンサイクルは火力発電所や原子力発電所で電力を作るための基本となる熱サイクルなので、我々の日常生活に欠かすことはできないサイクルです。
ランキンサイクルの効率を上げる手段として再熱サイクルと再生サイクルがあります。これらのサイクルの$T$-$S$線図は長方形に近づいているため、ランキンサイクルよりも高効率であることが視覚的にわかります。
再熱サイクルと再生サイクルは似た言葉で混同しやすいですが、「水蒸気を再び熱するのが再熱サイクル」、「使用後の蒸気の一部を別の道で再び生きかえらせるのが再生サイクル」と覚えましょう。